仮想通貨の相続で最大110%の課税が起こるという、信じられない事実をご存じでしょうか。
この異常な税負担は、制度の狭間で生まれた「想定外の落とし穴」です。
なぜ仮想通貨の相続税率は異常なのか?

仮想通貨を相続すると、相続税と所得税の二重課税によって、相続した金額を超える税金が発生する可能性があります。
これは税制の欠陥とも言える深刻な問題です。
相続税55%+所得税55%=合計110%の衝撃
具体的なケースで見てみましょう。
被相続人が2014年12月にビットコインを100BTC(約460万円)購入していたとします。
2024年12月時点で、その価値は約14億3700万円に急騰していました。
相続が発生すると、まず相続税が課税されます。
相続財産が高額なため、最高税率55%が適用され、約7億9000万円の相続税が発生します。
ここからが問題です。
相続税を納めるため、相続人がビットコインを売却したとします。
売却時には所得税と住民税が最大55%課税され、約7億8800万円もの税金がさらに発生してしまうのです。
合計すると約15億7800万円の税負担となり、相続した資産14億3700万円を上回る計算になります。
| 項目 | 金額 | 税率 |
|---|---|---|
| 相続時の評価額 | 14億3700万円 | – |
| 相続税 | 7億9000万円 | 55% |
| 売却時の課税対象額 | 14億3240万円 | – |
| 所得税+住民税 | 7億8800万円 | 55% |
| 税金合計 | 15億7800万円 | 110% |
なぜこんな異常事態が起きるのか
この二重課税問題の根本原因は、仮想通貨が「雑所得」として扱われることにあります。
不動産や株式を相続した場合、「取得費加算の特例」という制度が使えます。
これは、相続税として支払った金額の一部を、売却時の経費として計上できる制度です。
この特例があれば、二重課税の負担を大幅に軽減できます。
しかし、仮想通貨の売却益は雑所得に分類されるため、取得費加算の特例が一切使えません。
さらに深刻なのは、取得費の計算方法です。
相続人が仮想通貨を売却する際、取得費は「相続時の時価」ではなく、「被相続人が最初に購入した時の価格」を引き継ぐことになります。
つまり、460万円で購入したビットコインを14億円で売却すると、差額の約14億円すべてに所得税が課税されるのです。
相続税は「相続時の時価14億円」に対して課税され、所得税も「ほぼ同額の14億円」に対して課税される。
この構造こそが、110%課税という異常事態を生み出しています。
2026年税制改正でも解決しない相続税問題

2026年1月から、仮想通貨の税制が大きく変わります。
しかし残念ながら、相続に関する問題は解決されません。
所得税は改善されるが相続税はそのまま
令和8年度税制改正大綱により、仮想通貨の課税方式が大きく変更されました。
従来の雑所得(最大55%)から、申告分離課税(一律20.315%)への変更です。
さらに、損失の3年間繰越控除も可能になります。
これは投資家にとって朗報です。
通常の売買であれば、株式投資と同じ20.315%の税率で済むようになります。
| 項目 | 現行制度(~2025年) | 改正後(2026年~) |
|---|---|---|
| 課税方式 | 総合課税(雑所得) | 申告分離課税 |
| 税率 | 最大55% | 一律20.315% |
| 損失繰越 | 不可 | 3年間可能 |
ただし、この改正が適用されるのは「特定暗号資産」のみ。
国内登録取引所で扱う主要銘柄が対象で、海外取引所やDEXでの取引は従来通り雑所得のままです。
相続時の評価方法は改善されず
業界団体は、相続財産の評価方法について「過去3か月の平均最安値」での評価を要望しています。
上場株式と同じように、相続発生日を含む月とその前2か月の平均値のうち、最も低い価格で評価すべきだという主張です。
価格変動が激しい仮想通貨では、相続発生日がたまたま高値だった場合、相続人に過大な税負担が生じます。
実際に売却する時には価格が下落していることも多く、現実と乖離した評価額で相続税を支払わされるのです。
しかし、今回の税制改正では、この相続財産評価の問題は一切解決されていません。
依然として「相続開始日の時価」で評価され、110%課税のリスクは残り続けます。
税理士が押さえるべき実務ポイント

顧客が仮想通貨を保有している場合、税理士として適切な対応が求められます。
ここでは実務上の重要ポイントを整理しました。
相続発生時の緊急対応チェックリスト
相続が発生したら、まず取引所の特定から始めます。
被相続人のスマートフォンやパソコンを確認し、どの取引所を使っていたかを調べましょう。
メールの履歴や専用アプリの有無が手がかりになります。
取引所が特定できたら、すぐに相続発生の連絡をします。
この連絡により、口座が凍結され、不正出金を防ぐことができます。
次に、残高証明書の発行を依頼してください。
相続開始日(被相続人が亡くなった日)の残高と、日本円への換算レートが記載された証明書が必要です。
この証明書が相続税申告の基礎資料になります。
- 被相続人のスマホ・PCから取引所を特定
- 取引所に相続発生を連絡(口座凍結のため)
- 残高証明書の発行を依頼
- 相続開始日の換算レートを確認
- 複数取引所がないか徹底調査
- ウォレット保管分の有無を確認
複数の取引所を使っている場合は、すべての残高を把握する必要があります。
また、取引所ではなく個人のウォレットで保管しているケースもあるため、注意深く調査しましょう。
GtaxやCryptactといった損益計算ツールを活用すれば、複雑な取引履歴も効率的に整理できます。
特にGtaxは税理士法人が監修しており、相続案件でも信頼性の高い資料を作成できるでしょう。
評価額の決定方法と選択の余地
仮想通貨の相続税評価額は、以下の2つの方法から選べます。
まず、残高証明書に記載された金額をそのまま使う方法。
取引所が発行する残高証明書には、相続開始日の時価と日本円換算額が記載されています。
これが最もシンプルで、実務上も多く採用される方法です。
もう一つは、取引所が公表している売却価格を使う方法です。
同じ仮想通貨でも、取引所によって価格が異なります。
被相続人が複数の取引所に同じ銘柄を保有していた場合、相続人が選択した取引所の価格を使えます。
当然、最も低い価格を選ぶことで、相続税評価額を抑えることが可能です。
マイナーな銘柄で活発な取引市場がない場合は、個別評価が必要になります。
売買実例価格や専門家の意見を参考に、合理的な評価額を算定しなければなりません。
この判断は専門的な知識が必要なため、相続税に強い税理士への相談が不可欠でしょう。
申告書への記載は、第11表に転記します。
細目欄には「暗号資産」と記載し、評価額の根拠となる残高証明書を添付資料として保管してください。
顧客に伝えるべき生前対策
相続発生後の対応も重要ですが、最も効果的なのは生前対策です。
顧客が仮想通貨を保有していることが分かったら、すぐに対策を提案しましょう。
最善策は「生前売却」一択
110%課税を回避する最も確実な方法は、被相続人が生きているうちに仮想通貨を売却することです。
生前に売却すれば、所得税を支払うのは被相続人本人になります。
相続人は現金を相続するだけなので、二重課税の問題は発生しません。
売却後の現金であれば、相続税評価も明確で、申告手続きもシンプルです。
含み益が大きい場合、売却時の所得税負担は重くなります。
しかし、相続後に110%課税されるリスクと比較すれば、生前売却は圧倒的に有利です。
2026年以降は所得税が20.315%に下がるため、改正後に売却すればさらに税負担を軽減できます。
税制改正のタイミングも考慮しながら、顧客と売却時期を相談するとよいでしょう。
デジタル遺産リストの作成を必須化
仮想通貨は「見えない資産」です。
相続人が存在を知らなければ、申告漏れとなり、後日税務調査で多額の追徴課税を受けるリスクがあります。
顧客には、デジタル資産のリストを作成するよう強く推奨してください。
リストには以下の情報を記載します。
- 取引所名とアカウント情報
- 保有している仮想通貨の種類と概算数量
- ウォレットの種類と保管場所
- ログインに必要な情報の保管場所
- 秘密鍵やパスワードの管理方法
ただし、パスワードや秘密鍵を直接記載するのは危険です。
悪用されるリスクがあるため、情報は複数の場所に分散して保管すべきでしょう。
例えば、遺言書には取引所名だけを記載し、パスワードは別の金庫に保管する、といった工夫が必要です。
自筆証書遺言書を作成する際、財産目録にデジタル資産を含めることも有効です。
法務局の遺言書保管制度を利用すれば、紛失や改ざんのリスクも防げます。
価格変動リスクへの備え
仮想通貨は価格変動が激しい資産です。
相続時に1億円の評価だったものが、10か月後の申告期限時には5000万円に下落している、といったケースも珍しくありません。
相続税は相続開始日の時価で計算されるため、価格が下がっても納税額は変わりません。
つまり、評価額1億円に対して相続税を支払い、実際に売却できるのは5000万円だけ、という事態が起こり得ます。
この価格変動リスクを軽減するには、早めの換金が重要です。
相続発生後、できるだけ早く売却して現金化し、納税資金を確保する戦略が現実的でしょう。
ただし、急激な下落局面では、売却を待つべきか迷うケースもあります。
freee会計や弥生会計で資金繰りをシミュレーションし、顧客と慎重に判断してください。
税務調査で必ず指摘される申告漏れ
仮想通貨の申告漏れは、税務署にとって格好の調査対象です。
デジタル資産だからといって、隠し通せると考えるのは大きな間違いでしょう。
税務署は取引所に照会できる
税務署は、暗号資産交換業者に対して取引情報の照会権限を持っています。
相続人が申告しなくても、税務署は独自に仮想通貨の保有状況を把握できるのです。
特に高額な相続案件では、主要な取引所に一斉照会をかけることも珍しくありません。
ビットコインやイーサリアムなど、価値が高騰している銘柄は特に注意が向けられます。
2026年1月からは、CARF制度(暗号資産等報告枠組み)も導入されます。
この制度により、海外取引所の情報も各国税務当局間で自動的に交換されるようになります。
「海外取引所なら見つからない」という考えは、もはや通用しません。
申告漏れが発覚した場合のペナルティ
申告漏れが発覚すると、本来の相続税に加えて重いペナルティが課されます。
まず、過少申告加算税が10~15%追加されます。
さらに、意図的な隠蔽と判断されれば、重加算税35~40%が適用される可能性もあるでしょう。
延滞税も年率約9%で課税され、発覚が遅れるほど負担は膨らみます。
相続手続き完了後に仮想通貨の存在が判明すると、遺産分割協議のやり直しも必要になります。
相続人間でトラブルが再燃し、弁護士費用などの追加コストも発生するでしょう。
| ペナルティの種類 | 税率 | 備考 |
|---|---|---|
| 過少申告加算税 | 10~15% | 期限内申告後の修正 |
| 無申告加算税 | 15~20% | 期限内に申告しなかった場合 |
| 重加算税 | 35~40% | 仮装・隠蔽があった場合 |
| 延滞税 | 年約9% | 納付が遅れた期間に応じて加算 |
顧客には、「正直に申告することが結局は一番安く済む」という当然の事実を伝えてください。
今すぐ始めるべき税理士の対応

仮想通貨相続の問題は、今後確実に増加します。
税理士として、今から準備を始めるべきでしょう。
まず、既存顧客に対して仮想通貨保有の有無を確認してください。
年末調整や確定申告の際に、さりげなく質問するだけでも効果があります。
「最近ビットコインの価格が上がっていますが、保有されていますか?」といった会話から始めるとよいでしょう。
保有が判明したら、すぐに生前対策を提案します。
110%課税のリスクを具体的な数字で示し、生前売却のメリットを説明してください。
2026年の税制改正についても触れ、売却タイミングを一緒に検討しましょう。
Gtaxなどの損益計算ツールを事務所に導入することも検討すべきです。
これらのツールを使いこなせるかどうかが、仮想通貨案件を受けられるかどうかの分かれ目になります。
無料プランもあるため、まずは試してみるとよいでしょう。
相続が発生した場合の対応フローをマニュアル化しておくことも重要です。
取引所への連絡方法、必要書類のチェックリスト、評価額の算定手順などを文書化しておけば、スタッフ全員が対応できるようになります。
仮想通貨相続は、税理士にとって新たな専門領域であり、同時に大きなビジネスチャンスです。
早期に知識とノウハウを蓄積すれば、他の事務所との差別化にもつながるでしょう。
顧客の財産を守るため、そして事務所の成長のため、今すぐ行動を始めてください。
よくある質問と回答
Answer
いいえ、パスワードがわからなくても相続税はかかります。相続税の課税対象となるのは「被相続人が死亡時に保有していた財産」です。その財産にいくら以上の市場価値があるなら、相続人がそのパスワードにアクセスできるかどうかは関係なく課税されます。税務当局は、相続人が実際にその暗号資産を利用できるかではなく、死亡当時の時価に基づいて評価額を決めるのです。これは非常に厳しい制度ですが、税の公平性を保つためだとされています。ただし、パスワードがわからないと相続人が実際に暗号資産を取り出したり売却したりできないため、相続税の納付資金に困るケースが発生します。だからこそ、被相続人が生前にパスワードや秘密鍵をどこに保管しているかを明確に記録しておくことが極めて重要なのです。相続発生後に初めてパスワードがわからないことに気づくと、取り返しのつかない事態に陥ります。
Answer
いいえ、価格が暴落しても相続税の評価額は変わりません。相続税の評価額は「被相続人の死亡日の時価」で一度だけ決定されます。その後の価格変動は一切考慮されません。極端な例ですが、相続開始時に5億円の価値があったビットコインが、相続税を納めるために売却しようとした時点で3億円に下落していても、相続税は5億円の評価額に基づいて計算されたままです。納税資金が不足する最悪のケースも起こり得るのです。これを「時価評価のリスク」と言います。土地や建物でもこのリスクはありますが、仮想通貨の場合は価格変動が激しいため、より危険性が高まります。価格変動リスクへの対策としては、相続発生後になるべく早く売却して現金化し、評価額と実現額の乖離を最小化することが実務的な対応になります。
Answer
いいえ、110%課税問題は解決されません。2026年1月から施行される令和8年度税制改正により、通常の仮想通貨売買の所得税は「雑所得(最大55%)」から「申告分離課税(一律20.315%)」に変更されます。これは確かに大きな改善で、投資家にとって朗報です。しかし、改正が対象とするのは「通常の売買」に限られており、「相続した仮想通貨」は対象外です。さらに重要なのは、相続財産の評価方法に関する改正がないという点です。業界団体からは「過去3か月の平均最安値で評価すべき」という要望が出されていますが、実現していません。つまり、相続時の評価額が高い場合と所得税の課税対象となる売却益がほぼ同額という、二重課税の構造自体は改正されないのです。相続に関する仮想通貨の税務問題は、引き続き深刻なままです。
Answer
複数の取引所に同じ銘柄を保有している場合、相続人が任意に選択できる取引所の価格で評価することができます。つまり、最も価格が低い取引所を選べば、相続税評価額を抑えることが可能です。例えば、ビットコインを3つの異なる取引所に保有していて、A取引所が100万円、B取引所が99万円、C取引所が98万円だった場合、相続人はC取引所の98万円で評価する権利があります。これは「納税者有利選択」と呼ばれ、相続人にとって大きなメリットとなります。ただし、この制度を活用するには、被相続人が実際に複数の取引所で取引を行っていることを証明する必要があります。取引所から残高証明書を取得するなど、丁寧な調査が必須です。税理士としては、取引所の特定と残高確認を徹底的に行うことが、相続人の負担を軽減する重要な職務になります。
Answer
2026年1月以降の売却が税理上有利です。現在(2026年1月以降)は所得税が20.315%に下がっているため、生前に売却すれば被相続人が支払う税負担を大幅に軽減できます。例えば、含み益が1億円ある仮想通貨を売却する場合、従来(2025年まで)なら最大55%の所得税がかかっていました。しかし2026年以降は20.315%で済みます。その後の相続では、売却して得た現金が相続財産になるため、二重課税の心配がありません。ただし、売却のタイミングには仮想通貨の価格相場も考慮する必要があります。税理士としてのアドバイスは「税率の改善と相場の見通しを総合的に判断して、顧客と一緒に売却時期を決める」ことです。単純に「早く売却した方がいい」と勧めるのではなく、顧客の具体的な状況に基づいたオーダーメイドのコンサルティングが求められます。Freee会計などで資金繰りをシミュレーションしながら、客観的な判断材料を提供することが大切です。
