税理士のみなさん、最新記事「Cisco: Only 13% have a solid AI strategy and they’re lapping rivals」は読みましたか?
Ciscoが発表した調査レポートによると、世界の企業のうちAI導入に本気で準備ができているのはたった13%に過ぎません。
しかし、この13%の企業は他社を圧倒的に引き離し、AI投資から確実に成果を出しているという事実が明らかになりました。
税理士事務所も例外ではなく、AI時代を生き抜くためには「いつか導入しよう」ではなく、今すぐ準備を始める必要があります。
元記事を5つのポイントで要約
- AI導入の準備ができている企業は世界でわずか13%、Ciscoはこれらを「Pacesetters(先駆者)」と呼んでいる
- Pacesettersは他社の4倍の確率でAIプロジェクトを実用化し、50%高い確率で測定可能な成果を出している
- 成功企業の99%がAIロードマップを持っているのに対し、その他の企業は58%のみ
- 83%の企業がAIエージェントの導入を計画しているが、半数以上は現在のシステムではデータ処理能力が追いつかない
- 「AIインフラ負債」という新たな問題が浮上しており、準備不足のままAI導入を急ぐと長期的な価値が損なわれる
なぜ87%の企業がAI導入で失敗するのか?

「とりあえずChatGPT」では勝てない時代
Ciscoのレポートが明かした衝撃的な事実。
それは、AI導入の準備が整っている企業が全体のわずか13%しかいないという現実です。
残りの87%は、AIツールを導入しても十分な成果を得られていません。
税理士業界でも同じ現象が起きています。
「ChatGPT Plusを契約したから大丈夫」「freeeやマネーフォワードを使っているからAI対応済み」と安心している事務所は要注意。
ツールを導入することと、それを業務プロセスに組み込んで成果を出すことは全く別の話です。
成功している企業(Pacesetters)は、AIをサイドプロジェクトとして扱っていません。
事務所の中核戦略として位置づけ、明確なロードマップを作成しているのです。
99%が具体的なAI導入計画を持っているのに対し、その他の企業では58%しか持っていないという差が、結果の違いを生んでいます。
準備不足が招く「AIインフラ負債」
レポートは「AIインフラ負債」という新しい概念を紹介しています。
これは、システムの更新を先送りにしたり、データ整理を後回しにしたりすることで積み重なっていく「見えない借金」のようなもの。
税理士事務所で例えるなら、紙の資料とExcel、クラウド会計ソフト、PDFと顧問先データがバラバラに管理されている状態です。
こうした環境では、どれだけ高性能なAIツールを導入しても、データが散在していて活用できません。
調査では、約3分の2の企業リーダーが「今後3年でワークロードが30%以上増加する」と予測しているにもかかわらず、同じ割合の企業がデータを一元管理できていないと回答しています。
税理士事務所でも、顧問先が増えれば増えるほど業務量は膨らみますが、基盤が整っていなければAIは役に立ちません。
成功する税理士事務所の共通点とは?

明確な投資優先順位と戦略的ロードマップ
成功している企業の79%は、AIを最優先の投資対象としています。
一方、その他の企業では24%のみ。
この差は税理士事務所にも当てはまるでしょう。
「AI導入にお金をかけるべきか迷っている」という段階では遅いのです。
すでにAIを戦略の中心に据えている事務所は、具体的な投資計画を立て、スタッフのトレーニングやシステム刷新に予算を割いています。
例えば、以下のような取り組みが考えられます。
| 分野 | 従来の方法 | AI戦略を持つ事務所 |
|---|---|---|
| 記帳代行 | 手作業で入力、月末に集中作業 | AI-OCRとfreee・マネーフォワードの自動仕訳で即時処理 |
| 税務相談 | 過去事例を手作業で検索 | ChatGPTやClaude等で判例・通達を瞬時に検索・要約 |
| 顧客対応 | メール・電話対応に時間を取られる | AIチャットボットで初期対応、複雑な案件のみ人が対応 |
| 申告書作成 | 各種ソフトで個別に作成 | データ連携で申告書を自動生成、確認作業に集中 |
スケーラブルなシステム設計
成功企業の98%は、AIの規模や複雑さに対応できるネットワークを設計しています。
その他の企業ではわずか46%です。
税理士業界では「顧問先が増えても対応できるシステム」が必要。
新しい顧問先が増えるたびに手作業が増える状態では、成長に限界があります。
71%のPacesetter企業が「どんなAIプロジェクトにも即座に対応できる」と答えているのに対し、その他の企業では15%のみ。
この自信の差が、ビジネスの成長スピードを左右します。
税理士事務所でいえば、クラウド会計ソフト(freee、マネーフォワード、弥生会計オンライン)、電子申告システム(e-Tax、eLTAX)、顧客管理システム(kintone、Salesforce)などを統合し、データが自動で流れる仕組みを作ることが重要です。
AIエージェント時代の到来に備えよ

1年以内に40%の企業がAIエージェントを導入
レポートによれば、83%の企業がAIエージェントの導入を計画しており、そのうち40%近くが1年以内に人間のスタッフと一緒に働かせる予定です。
AIエージェントとは、単なるツールではなく、自律的に判断して業務を進める「AI従業員」のようなもの。
税理士業務でいえば、請求書を自動で読み取って仕訳するだけでなく、不明な取引先については過去データを参照し、適切な勘定科目を提案してくれるレベルです。
ところが、調査では半数以上の企業が「現在のネットワークではデータ量や複雑さに対応できない」と回答しています。
準備ができている企業の75%が「AIエージェントを安全に管理できる」と答えているのに対し、その他の企業では31%のみ。
税理士事務所でも、顧問先データや税法データベース、過去の申告履歴などを整理し、AIがアクセスしやすい形で保存しておく必要があります。
バラバラのExcelファイルや紙の資料では、AIエージェントは機能しません。
セキュリティとコントロールが成否を分ける
税理士が扱うのは顧問先の機密情報。
AIエージェントに任せるにしても、セキュリティとコントロールは絶対に譲れません。
成功している企業は、AIを導入する前に以下のような準備をしています。
- 顧客データのアクセス権限を明確化し、AIが触れていい情報とダメな情報を区別
- AI判断の根拠をログとして記録し、後から検証できる仕組みを構築
- 定期的にAIの出力をチェックし、誤った判断をしていないか監視
- スタッフ全員にAIの使い方とリスクについての研修を実施
税理士業界では、税理士法や守秘義務の観点からも、AIに任せる範囲と人が確認すべき範囲を明確にすることが不可欠です。
例えば、ChatGPTに顧問先の詳細情報をそのまま入力するのは危険ですが、匿名化したデータで税務上のアドバイスを得るのは有効でしょう。
税理士が今すぐ始めるべき3つのステップ

ステップ1:現状のデータとシステムを棚卸しする
まずは自分の事務所がどの状態にあるのかを把握しましょう。
以下のチェックリストで確認してみてください。
- 顧問先データは一元管理されているか?(Excel、紙、クラウドがバラバラになっていないか)
- 過去の申告書や相談履歴はデジタル化されているか?
- クラウド会計ソフトと申告ソフトは連携しているか?
- スタッフ全員がどこからでもデータにアクセスできるか?
- セキュリティ対策(二段階認証、暗号化など)は十分か?
これらの質問に「いいえ」が多ければ、AIインフラ負債が積み重なっている証拠。
まずはデータ整理とシステム統合から始めましょう。
ステップ2:AIロードマップを作成する
「いつか導入したい」ではなく、具体的な計画を立てることが重要です。
| 期間 | 取り組み内容 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 3ヶ月以内 | ChatGPT Plus導入とスタッフ研修、データ整理開始 | 税務相談の効率化、検索時間の削減 |
| 6ヶ月以内 | AI-OCRツール導入、記帳代行の自動化 | 記帳業務の50%削減 |
| 1年以内 | 顧客管理システム統合、AIチャットボット導入 | 顧客対応時間の30%削減 |
| 2年以内 | AIエージェントによる申告書作成補助 | 申告業務の大幅な効率化 |
このような具体的な計画があれば、スタッフも納得して協力してくれますし、投資の判断もしやすくなります。
ステップ3:小さく始めて、確実に広げる
いきなり全業務をAI化する必要はありません。
成功している企業も、まずはパイロットプロジェクトから始めています。
税理士事務所なら、以下のような「小さな成功」から始めるのがおすすめ。
- 税務相談の事前調査にChatGPTを活用し、調べる時間を半分にする
- 請求書や領収書のスキャンと仕訳にAI-OCRを試し、記帳時間を測定する
- よくある質問への回答をAIチャットボットに任せ、顧客満足度を確認する
- 申告書のチェック作業にAIを使い、ミスの検出率を比較する
Pacesetter企業は、パイロットから本番移行する確率が他社の4倍です。
それは、小さな成功体験を積み重ね、組織全体の理解と協力を得ているから。
最初から完璧を目指すのではなく、試して、学んで、改善する。
この繰り返しが、AI時代に生き残る税理士事務所を作ります。
「準備」が価値を生む時代
Ciscoレポートの結論は明快です。
「AIは失敗しない、準備不足が失敗を招く」
税理士業界は今、大きな転換点にあります。
記帳代行や単純な税務相談だけでは、AIに取って代わられる日が来るかもしれません。
しかし、顧問先の事業を深く理解し、経営判断をサポートする高度なアドバイザリー業務は、人間にしかできません。
そのためには、単純作業をAIに任せ、自分たちは付加価値の高い業務に集中する体制を作る必要があります。
今回紹介したPacesettersのように、明確な戦略を持ち、システム基盤を整え、小さな成功を積み重ねていく。
「いつかやろう」ではなく、「今日から始める」。
この意識の差が、5年後、10年後の事務所の姿を大きく変えるでしょう。
あなたの事務所は、13%の先駆者になりますか?
それとも、87%の後追い組に留まりますか?
選択するのは、今です。
よくある質問と回答
Answer まずは現状のデータ整理から始めましょう。顧問先の情報がExcel、紙、クラウド会計ソフトなどバラバラに管理されている状態では、どんなに優れたAIツールを導入しても効果は限定的です。最初の3ヶ月はデータの一元化とクラウド会計ソフトへの移行を優先し、その後ChatGPT Plusなどのツールでスタッフが慣れることから始めるのがおすすめです。小さな成功体験を積み重ねることで、事務所全体のAI受け入れ態勢が整います。
Answer その心配は正しい視点です。AIはあくまで「補助ツール」であり、最終的な判断と責任は税理士が負います。顧問先の機密情報をそのままChatGPTなどに入力するのは避け、必要に応じて匿名化や一般化した情報で相談することが重要です。また、AI-OCRや自動仕訳ツールを使う場合も、必ず人間が最終チェックを行い、AIの判断根拠を記録として残せる仕組みを作りましょう。AIに任せる範囲と人が確認すべき範囲を明確にしたルールを事務所内で定めることが不可欠です。
Answer 小規模事務所でも十分に始められます。まずはChatGPT Plus(月額20ドル程度)やGemini Advancedなど、個人向けのAIツールからスタートできます。既にfreeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトを使っている場合、その中のAI機能を活用するだけでも効果があります。本格的なAI-OCRや顧客管理システムの統合は、月額数万円から始められるものもあります。重要なのは高額なシステムを一気に導入することではなく、明確な計画を立てて段階的に投資することです。最初は月3万円程度の予算でも、業務効率化の実感は得られるでしょう。
Answer 「AIが仕事を奪う」という不安は自然な反応です。まずは「AIは敵ではなく、面倒な作業を減らしてくれる味方」という認識を共有しましょう。記帳代行や領収書の仕訳など、誰もが面倒に感じる業務からAI化を始め、浮いた時間で顧問先とのコミュニケーションや付加価値の高い相談業務に集中できることを示します。また、いきなり全員に使わせるのではなく、興味のあるスタッフに試してもらい、成功事例を共有することで徐々に広げていく方法が効果的です。研修の時間を設けて、一緒に学ぶ姿勢も大切ですね。
Answer AIインフラ負債とは、システム更新の先送りやデータ整理の後回しによって積み重なる問題です。これを防ぐには、定期的な「棚卸し」が必要です。半年に1回は、使っているソフトやツールが最新版か、データが適切に整理されているか、セキュリティ対策が十分かをチェックしましょう。特に税理士事務所では、顧問先が増えるたびにデータが増えていくため、放置するとすぐに手に負えなくなります。クラウドストレージを活用し、ファイル命名規則を統一し、不要なデータは定期的に削除する習慣をつけることが重要です。目先の忙しさに流されず、「システムメンテナンスの日」を月に1回設けるだけでも、将来の負債は大幅に減らせます。
