税理士のみなさん、最新記事「OpenAI connects ChatGPT to enterprise data to surface knowledge」は読みましたか?
この記事は、OpenAIがChatGPTを企業内データと連携させる新機能を発表したことをまとめています。
複数の社内ツールを横断して情報を探し出せるようになり、業務効率化や意思決定力の強化が期待されます。
元記事を5つのポイントで要約
- ChatGPTがSlackやSharePoint、Google Driveなどの企業データに直接アクセスし情報を統合できるように進化
- データ管理やセキュリティ面の課題も考慮し、ユーザーごとに閲覧範囲や管理権限の細かな設定が可能
- 情報が分散していることで生じる業務の非効率、意思決定の遅れといった課題をAIで解決
- Microsoft Copilot、Google Vertex AI、Salesforce Agentforce等、他社のAIソリューションへの対抗策としての展開
- 導入には社内データ権限調整や用途ごとの試験導入・制限事項の把握が重要
こうした新しいAI連携は、会計事務所の現場でも大きな変革をもたらす可能性があります。
freee、マネーフォワード、弥生会計などのクラウドサービスとの連携も今後強化されていきそうです。
AIとクラウドデータ連携の革命

企業や事務所内で散在しがちな情報。
その集約と可視化は、これまで経理や税務の現場でも大きな課題でした。
連携で変わる情報収集
ChatGPTが複数の社内プラットフォームを一括検索できることで、これまでメールやSlack、Google Drive、社内ファイルサーバーなどバラバラだった情報源を一元的に横断できるようになります。
税理士や経理担当者も、クライアント対応や会議準備などで必要な情報をすばやく引き出せるようになります。
ツール統合で効率化
これにより、freeeやマネーフォワード、kintone、Sansanなど、既存の業務ツールとの連携による効果も広がります。
取引データや顧客履歴、契約書ファイルなどを横断的にチェックしながら、経理処理や資料作成を短時間で実施できる環境が整います。
AI連携はデータ横断検索と分析を圧倒的に効率化する選択肢でしょう。
データ管理・セキュリティの注意点

AIが企業内データへアクセスするとなると、データの管理やセキュリティの重要性が一段と高まります。
権限設定の最適化
OpenAIの新サービスでは、ユーザー権限に基づいてアクセス範囲が自動で管理されます。
会計事務所で扱う顧客データや給与データにも個人情報が多く含まれるため、既存の情報管理フローやGoogle Drive・SharePointの権限状態を徹底的に見直す必要があります。
プライバシーとガバナンス
企業や事務所内でのAI活用に際して、どこまでデータをAIモデルに預けてよいかという観点も重要です。
ChatGPT Enterprise版では、入力データの学習利用オフやログ管理、SSO、IPホワイトリスト制御など高度なIT統制が可能です。
AI活用の前提は適切なデータ統制と権限管理となります。
意思決定・顧問サービスへの応用

大量のファイルや取引履歴から瞬時に最適な回答や資料をまとめる力は、バックオフィス業務にとどまらず、クライアントへのコンサル業務や提案力も高めます。
クライアント対応の質向上
情報が散在していても、顧問担当者がChatGPTに「前年の決算時にクライアントAが直面した課題をまとめて」などと依頼すれば、Slackやメール、会計データを横断的に調べて重要ポイントを抽出。
提案資料や会議資料作成にかかっていた手間が大きく減ります。
社内ナレッジ活用の強化
事務所内に蓄積されたQ&A集や過去の申告対応ノウハウ、会議議事録や業務マニュアルなどもAIが横断的に整理できます。
後輩スタッフ教育や標準業務の効率化にも役立ち、ナレッジの属人化防止にもつながります。
導入時の具体的な進め方
いきなりすべての業務をAIに任せるのではなく、特に情報分散で時間ロスが多い業務から段階的にAI活用を進めるのがポイントです。
パイロット導入による効果測定
まずは社内で最も時間のかかるクライアント対応や、決算資料の準備・調査業務など、情報集約の効果が見込まれる単位でパイロット導入してみましょう。
パイロット的に効果検証を行うことで、本格導入時にトラブルを最小限にできます。
- SlackやGoogle Driveの権限点検
- 情報収集や意思決定プロセスでの利用方法を明確化
- 従業員へのルール・教育を徹底
自社ツールのエコシステムとの比較
Microsoft 365やGoogle Workspaceなど、すでに導入しているクラウド基盤との連携相性も検討ポイントです。
どのAI基盤を主軸とするかによって、チャットボット・自動レポート作成といった追加機能の発展可能性が大きく変わります。
| クラウドプラットフォーム | AI統合特徴 | 税理士・経理業務での利用例 |
|---|---|---|
| Microsoft Copilot | Office・メール・Teams等との強力連携 | Excelデータ集計、会議議事録自動要約 |
| Google Vertex AI | Google Drive・Gmail・Chatデータと統合 | 決算資料自動生成、メール問合せ分析 |
| OpenAI ChatGPT | 複数プラットフォーム横断・専門特化 | 社内マニュアルナレッジ横断整理、クライアント対応履歴集約 |
本格導入の際には自社の情報エコシステム全体を見直し、まずは少人数でのテスト導入から着実に進めていくことをおすすめします。
税理士のみなさんにとって、もう一つ知っておきたいポイントがあります。
AI導入は単なるツール選択ではなく、事務所の組織体制や業務フローそのものを見直す機会でもあるということです。
スタッフ教育と組織変革
ChatGPTがクラウドデータと連携できるようになると、スタッフの仕事内容も大きく変わります。
単純な情報探索や手作業は減り、その情報をどう解釈し活用するかという思考力がより求められるようになるからです。
スキルシフトへの対応
経理スタッフが毎日のようにやっていた「複数ファイルから必要な数字を探して集計する」といった作業は、AIに任せられるようになります。
その分、空いた時間をクライアント対応や経営分析、提案資料作成といった付加価値の高い業務に充てられます。
事務所内では、スタッフがこうした新しい役割にシフトするためのトレーニングが必須です。
週1回程度の勉強会でChatGPTやクラウド会計ソフトの使い方を学んだり、具体的な業務シーンでの活用例を共有したりすることが重要です。
組織の生産性向上
スタッフ全体がAI活用スキルを磨くことで、事務所全体の生産性が一段と高まります。
2つの同規模な事務所があったとき、一方がAI活用を積極的に進めていて、もう一方が従来のやり方のままだとすると、3年後には大きな差が生まれているでしょう。
AI活用はスタッフの成長機会であり、事務所全体の競争力を高める戦略的投資と位置づけるべきです。
顧問先への新しい付加価値
企業内データとAIの連携は、税理士事務所がクライアント企業に提供できるサービスの質も大きく引き上げます。
リアルタイム経営情報の提供
これまで、クライアント企業の経営情報は「月次決算」という単位で、ある程度のタイムラグを持って把握されていました。
しかし、クラウド会計ツールがAIと連携すれば、リアルタイムに近い形で経営データを分析し、経営課題を早期発見できるようになります。
たとえば、月の半ばの時点で売上推移が危ないなと判断できれば、クライアント企業も即座に経営判断や営業活動の見直しができます。
こうした素早い経営支援は、従来の事務的な会計サービスでは実現できない付加価値になります。
経営相談の質向上
クライアント企業から「今年の経営見通しは?」と相談されたとき、これまでなら過去数年の決算資料を手作業で集計し、トレンドを分析していました。
これからは、AIに指示するだけで過去の取引データ、請求書、経費データなどから自動的に分析結果が出ます。
その結果をベースに、より深い経営アドバイスや戦略提案ができるようになるのです。
経理・会計の領域にとどまらず、事業拡大、資金調達、事業承継など、経営全般への相談対応力も高まります。
実装時に気をつけるべきポイント
新しいテクノロジーを導入するとき、気をつけるべき落とし穴があります。
段階的な導入とテスト運用
記事でも触れられていますが、ChatGPTのクラウド連携機能にはまだ制限があります。
たとえば、クラウド検索を有効にしているときはウェブ検索ができない、数式や表の生成に一部制限がある、といった点です。
導入前には、こうした制限事項が自社の業務にどう影響するかをしっかり検証しておきましょう。
いきなり全体導入するのではなく、特定チームや特定の業務フローでのパイロット導入から始めるのが賢明です。
データ管理体制の整備
AIがアクセスするデータの権限管理は、導入の成否を左右する最重要課題です。
Google DriveやSharePoint内のフォルダ権限が誰に何を見せるか、を明確に整理しておかないと、意図しない情報がAIを通じて参照される可能性があります。
導入前に以下の項目をチェックしておきましょう。
- SharePointやGoogle Driveの権限設定が適切か(過度に開放的になっていないか)
- 個人情報や機密情報が含まれるファイルへのアクセス権が限定されているか
- 不要になった古いファイルやフォルダは削除されているか
- 新入社員など権限が不十分なスタッフの確認と見直し
- 監査ログやアクセス記録の保存体制
今後の展開と競争環境

OpenAIのこの新機能は、単発のニュースではなく、AI市場全体のトレンドを示しています。
各社のAIプラットフォーム競争の激化
記事でも述べられているように、Microsoft、Google、Salesforceといった大手企業も同様の機能を急速に強化しています。
自社のクラウドサービスユーザーをAIで引き留め、さらに深い依存を生み出そうとしているわけです。
税理士事務所としては、今のうちにどのプラットフォームを主軸にするかを戦略的に判断しておくことが重要です。
freeeはどのAI連携を強化するか、マネーフォワードはどう対応するか、弥生会計はどう変わるか、といったクラウド会計ソフト側の動きも注視しておきましょう。
業界全体へのインパクト
AI活用が進むと、事務作業の効率化により、小規模な事務所でも大規模事務所に近い処理能力を持つようになります。
一方で、高度な経営相談や戦略立案といった付加価値の高いサービスの提供が、事務所の競争力を決める時代になっていくでしょう。
AIは効率化ツールだが、本当の価値は人間にしかできない深い相談とアドバイスにあると認識しておくべきです。
今、税理士業界は大きな転換期を迎えています。
AI技術を味方につけ、スタッフのスキルアップと組織体制の見直しに投資する事務所と、従来のままの事務所では、5年後に大きな差が生まれているはずです。
よくある質問と回答
Answer エンタープライズ版では、SlackやSharePoint、Google Driveといった社内ツールと連携し、企業内データを横断的に検索・分析できます。 通常版が一般的な質問に答えるのに対し、エンタープライズ版は自社の過去メールや会議資料、社内マニュアルなどを参照して回答を生成します。 また、データの学習利用をオフにできる、SSO対応、IPホワイトリスト設定など、セキュリティ面でも企業利用に特化した機能が充実しています。 税理士事務所であれば、顧問先ごとのファイルや申告履歴を安全に管理しながらAI活用できる点が大きなメリットです。
Answer 現時点では、freeeやマネーフォワード、弥生会計といった会計ソフトとの直接的な公式連携は発表されていませんが、これらのツールがGoogle DriveやSharePointにデータをエクスポートしている場合、そのファイルを通じて間接的に情報を取得できます。 今後、各クラウド会計ソフトがAPI連携を進める可能性も高いため、動向を注視しておくことが重要です。 現段階では、会計データをCSVやExcelでクラウドストレージに保存し、ChatGPTがそれを参照する形での活用が現実的でしょう。
Answer OpenAIは、エンタープライズ版ではユーザーデータを学習に利用しないことを明言しており、暗号化、SSO、アクセスログ管理などの高度なセキュリティ対策を提供しています。 ただし、最も重要なのは社内のデータ権限設定です。 Google DriveやSharePointで適切にアクセス権限が設定されていなければ、AIを通じて意図しない情報が参照される可能性があります。 導入前に、顧問先データや個人情報を含むファイルの権限を徹底的に見直し、必要最小限のアクセス権に制限しておくことが不可欠です。
Answer むしろ小規模事務所こそ、AI活用のメリットが大きいと言えます。 人手不足や業務の属人化といった課題を抱えがちな小規模事務所では、AIによる情報整理や業務効率化が即座に効果を発揮します。 たとえば、所長とスタッフ数名の事務所であれば、過去の申告事例や顧問先対応履歴をAIが一元管理することで、ナレッジの共有がスムーズになります。 初期投資も、いきなり全社導入ではなくパイロット的に1つのチームや業務から始めれば、リスクを抑えながら効果を確認できます。
Answer ChatGPT Enterpriseの料金は公開されておらず、企業規模や利用人数によって個別見積もりとなります。 一般的には月額数十ドルから数百ドル程度と言われていますが、正確な費用はOpenAIへの問い合わせが必要です。 導入期間については、既存のクラウドツールとの連携設定や権限整備に1〜2カ月、スタッフへの教育やパイロット運用に1〜3カ月程度を見込むのが現実的でしょう。 ただし、事務所の規模や既存システムの整備状況によって大きく変わるため、まずは現状のデータ管理体制を棚卸しすることから始めることをおすすめします。
