電子帳簿保存法の対応について、頭では分かっていても「現場としてはもう限界に近い」と感じている税理士の方も多いと思います。
とくに検索要件やIT対応の負担が、見えないかたちで「無限責任」のように膨らんでいる状況ですね。
電子帳簿保存法の現実

電子帳簿保存法は、趣旨だけ見れば「業務のデジタル化を進めましょう」という前向きな制度に見えます。
ところが実際には、税理士にとってはリスクと手間ばかり増える制度になりかねない側面があります。
とくに全事業者に義務化された「電子取引データの保存」は、紙ベースでやってきた小規模事業者にとって、ハードルが一気に上がりました。
Amazonや楽天、メール添付のPDFなど、どんどん電子の証憑が増えていく一方で、それを整理する時間もスキルもない。
結局、その尻ぬぐいが「税理士ならどうにかしてくれるだろう」という期待となって押し寄せてきます。
税理士側から見れば、本来は申告業務の外側にあるはずの作業まで、グレーゾーンとして引き受けざるをえない。
その結果、報酬に反映されない「ITサポート係」のような役割が、じわじわ増えている状況といえます。
「電子」の増加と税理士の役割
ここ数年で、証憑の入り口は大きく変わりました。
弥生会計、freee会計、マネーフォワードクラウド会計などのクラウド会計ソフトに、データを直接取り込むケースも多くなっています。
一見すると便利ですが、現場では次のような問題が起きがちです。
- そもそも顧客がPDFをどこに保存したか分からない
- ファイル名が「invoice.pdf」「scan001.pdf」のままで中身が判別できない
- クラウドストレージ(Googleドライブ、Dropbox、OneDriveなど)のフォルダ構成がバラバラ
- 会計ソフトへの取り込みと、電子帳簿保存法上の要件整理が別問題になっている
こうした状況を放置すると、「とりあえず会計処理はできたが、保存要件を満たしていなかった」という落とし穴にはまりやすくなります。
電子帳簿保存法対応は、会計入力とは別軸で設計しておかないと危険という感覚が重要になります。
中小零細企業とITギャップ
さらに厄介なのが、顧客側のITリテラシーの差です。
Excelファイルを開くのも一苦労という事業者と、クラウドツールを自在に使いこなす事業者が、同じルールのもとで動かされています。
税理士からすれば、どの顧客にも同じレベルの説明をする時間はありません。
にもかかわらず、どの顧客も「うちも法律にちゃんと対応したい」とは言うので、説明責任だけが際限なく膨らむ構造です。
結果として、ITが苦手な顧客ほど、税理士にかかる負担が重くなりがちです。
それでも顧客を見捨てるわけにはいかないところが、この制度の難しさといえるでしょう。
IT対応で広がる無限責任

電子帳簿保存法の実務対応は、本来であれば「顧客の業務フローの話」です。
ところが実際には、税理士がITコンサルのような立場まで求められやすくなっていることが問題です。
「どのフォルダに保存すればいいのか」「ファイル名はどうつければいいのか」「スキャナ保存の解像度は」など、細かい相談は尽きません。
ここにすべて答えようとすると、文字どおり無限責任に近い状態になります。
誰がファイル名をつけるのか問題
現場で一番リアルな悩みのひとつが、「PDFに誰がルールどおりのファイル名をつけるのか」です。
例えば、電子帳簿保存法の検索要件を意識するなら、最低限、日付や取引先、金額などが分かる名前が望ましいと考えられます。
ただ、実務では次のような壁にぶつかります。
- 顧客にルールを伝えても、忙しさや慣れの問題で守られない
- 事務員さんが途中で変わり、ファイル名ルールが引き継がれない
- 気づけばフォルダの中が「請求書」「請求書(2)」だらけになっている
もし税理士側でファイル名の整理まで代行しようとすれば、膨大な工数が発生します。
しかも、その作業は会計ソフトへの入力や申告書作成のように、明確に「報酬に反映しやすい仕事」とは言いにくい部分です。
そのため、ファイル整理をどこまで請け負うのか、事務所として線引きを決めておくことが重要になってきます。
「丸投げ顧客」とどう向き合うか
ITが苦手な顧客ほど、「よく分からないので、そちらで何とかしてください」と言いがちです。
気持ちは分かりますが、その一言で、税理士サイドの業務負担は一気に増えます。
ここで重要なのは、「できること」と「できないこと」を事前にきちんと伝えることです。
例えば次のような区分が考えられます。
| 項目 | 事務所の対応 | 顧客の役割 |
|---|---|---|
| 会計ソフトへの仕訳入力 | 原則として事務所側で対応 | 資料の提出・質問への回答 |
| PDFファイル名の変更 | 原則は対応外とし、別料金で相談 | ルールを守ってファイル名をつける |
| クラウドストレージの設定 | 推奨フォルダ構成のひな型を渡す程度 | 実際の運用と社内周知 |
このように役割分担を言語化しておくと、「どこまでやるべきか」で悩む場面が減ります。
また、顧問契約書や業務案内に、この線引きを盛り込むことで、後々のトラブルも防ぎやすくなります。
検索要件と現場負担

電子取引データの保存でネックになるのが、「日付・金額・取引先」で検索できるようにしておくという検索要件です。
この要件は法律上はシンプルですが、実務レベルでは中小企業と税理士の双方に大きな負担を生んでいるのが実情です。
税務署としては、「必要な証憑をすぐに取り出せる状態になっていればよい」という発想ですが、現場のPCフォルダやクラウドストレージは、そんなに整然とはしていません。
検索要件を形式的に満たすだけでも、ルールづくりと運用の両面で工夫が欠かせません。
検索要件をどう満たすかの現実解
完璧を目指そうとすると、すぐに行き詰まってしまいます。
そこで、まずは「最低限これだけは守ろう」というラインを決めることが現実的です。
例えば、次のような運用ルールが考えられます。
- フォルダ階層で「年度→月→取引先」など、大まかに整理する
- ファイル名の先頭に西暦や和暦の日付を入れる
- 取引先名か略称を、ファイル名のどこかに含める
- 金額については、ファイル名か、会計ソフト側の検索性で補う
弥生会計やマネーフォワードクラウド会計では、取引先や金額での検索機能があります。
こうした会計ソフト側の機能と、ストレージ側のフォルダ・ファイル名ルールを組み合わせることで、検索要件を「全体として満たす」イメージを持つと少し楽になります。
100点満点を狙うより、実現可能な70点を継続するほうが結果的にリスクは下がると考えたほうが、現場にはフィットしやすいでしょう。
「検索できない状態」の怖さ
逆に、検索要件をまったく意識していないとどうなるでしょうか。
ファイルがデスクトップに散乱し、「請求書_最終」「請求書_本当の最終」などの名前が並んでいる状態は、税務調査の場面では致命的になりかねません。
調査官から「この取引の証憑を見せてください」と言われたとき、数分で出せるかどうかが勝負です。
探し回って時間がかかるほど、「本当にきちんと管理できているのか」という目線で見られてしまいます。
税理士としては、顧客に対して「検索できる状態になっていないと、調査のときに余計な疑いを招きます」と、具体的なリスクを伝えることが大切になります。
そのうえで、Excelで簡単なファイル管理台帳を作ってもらうなど、現実的な落としどころを一緒に考えていく姿勢が求められます。
罰則リスクへの向き合い方

電子帳簿保存法への対応が不十分なまま税務調査を迎えると、青色申告の承認取り消しや追徴課税のリスクが出てきます。
この点があるからこそ、税理士は「まあ何とかなるだろう」と割り切れない立場に置かれている罰則リスクをどう説明するか
顧客にとって、法律の条文だけを見せられてもピンときません。
そこで、次のような伝え方が有効になる場面が多いです。
- 「証憑がちゃんと出せないと、経費として認められない可能性があります」
- 「電子取引を紙に印刷しただけでは、法律上は足りないとされています」
- 「データを消してしまうと、あとから復元できずに不利になります」
freee会計やマネーフォワードクラウド会計の画面を見せながら、「この領収書データが、あとからでもすぐ出せる状態になっていることが大事です」と示すと、イメージが湧きやすくなります。
抽象的な法律の話を、顧客の画面やファイルに落とし込んで見せることが説得力につながるリスクをすべて背負わない工夫
一方で、税理士側がすべてのリスクを背負う形になってしまうと、精神的にも業務的にも持ちこたえられません。
顧問先との関係を守るためにも、「ここから先は顧客の責任」というラインを明確にしておく必要があります。
例えば、次のような工夫が考えられます。
- 電子帳簿保存法への対応方針を、文書(A4一枚程度)にまとめて配布する
- 訪問やオンライン面談の際に、その文書を説明し、理解を確認する
- 対応を依頼した項目について、チェックリスト形式で「実施・未実施」を記録しておく
こうした記録があるだけでも、「税理士が何も説明してくれなかった」と一方的に主張されにくくなります。
結果として、顧客との信頼関係を保ちつつ、過剰な賠償リスクから身を守ることにつながります。
指導責任と線引き
最後に大きなテーマとなるのが、「どこまで指導すべきか」という指導責任の問題です。
税理士は、法律の内容とリスクを伝える義務はあっても、顧客の行動まではコントロールできない「やってくれない顧客」との付き合い方
説明してもなかなか動いてくれない顧客は、どの事務所にもいるものです。
何度お願いしても、フォルダ整理やファイル名ルールが守られないケースも少なくありません。
そのような場合は、「いつ・どんな説明をしたか」を簡単にメモしておくだけでも意味があります。
メールで方針を送っておく、オンライン会議の議事メモを残しておくなど、小さな積み重ねがあとで効いてきます。
また、事務所内でも「ここまで説明したら、ひとまず義務は果たしたと考える」という共通認識を持っておくと、担当者ごとの判断のブレが減っていきます。
税理士自身を守るためのスタンス
電子帳簿保存法とIT対応の波の中で、税理士はどうしても守りにくい立場に置かれがちです。
だからこそ、「何があっても全部引き受ける」というスタンスではなく、「できる支援は全力でするが、限界もある」という線引きが欠かせません。
弥生会計やクラウド会計、クラウドストレージといったツールは、あくまで手段にすぎません。
それらをどう使うか、どこまで運用を顧客に任せるかを、事務所として整理しておくことで、無限責任に陥るリスクを減らせます。
最終的には、税理士が疲弊しない形で、顧客と法律のあいだをつなぐ仕組みをつくれるかどうかよくある質問と回答
Answer
フォルダ名で「年度→月→取引先」という大枠を決めておくと、検索要件の半分はクリアになります。ファイル名は「20250401_取引先名_金額」という形で、日付と取引先を必ず入れるようにするとよいでしょう。弥生会計やfreee会計では、金額や取引先での検索が可能なので、ファイル名に金額を入れなくても、ソフト側で検索できれば要件を満たせます。大事なのは、ファイル名ルールを「5つも作らない」こと。1つか2つに絞って、顧客に「これだけ守ってね」と伝えることが肝心です。ルールが複雑すぎると、誰も守れなくなります。
Answer
まず、事務所として「ここまでやります、ここから先はできません」という線引きを明確にしておくことが大切です。例えば、ファイル名変更やフォルダ整理は対応外、会計ソフトへの取り込みは対応可能、というように分けておくと、後でトラブルになりにくくなります。顧客には「今の制度では、ITの運用も経営の一部です。申告書作成だけを丸投げする時代は終わりました」と、丁寧に現状を伝えましょう。もし、本当に対応できない場合は、別途料金を設定して「ITサポートプラン」として提案するのも一つの手です。
Answer
青色申告の承認取り消しや、経費不認定による追徴課税が主なリスクです。税理士個人への直接的な罰則はありませんが、顧客から「教えてくれなかった」と民事で訴えられる可能性はゼロではありません。実務では、事前に「電子帳簿保存法対応のお願い」という文書を配布し、面談で説明したことをメモしておくことが重要になります。文書やメール、議事メモが残っていれば、「指導義務は果たした」と主張しやすくなります。あとは、顧問契約書に「IT環境の整備は顧客の責任」旨の条項を入れておくと、さらに安心です。
Answer
指導の回数よりも、「指導した証拠」を残すことの方が重要です。何度メールで送っても開かれていない顧客には、オンライン面談の場で画面を共有しながら確認してもらい、「今日説明した内容、理解できましたか」と録画や議事メモを残しておくと効果的です。あとは、事務所内で「ここまでやったら指導義務は果たした」とする基準を決めておくことで、担当者の悩みが減ります。freee会計やマネーフォワードクラウド会計の操作画面をキャプチャして手順書を作っておくと、同じ説明を何度もする手間が省けます。完璧を求めず、「最低限これだけは」というラインを決めることが、現実的な解決策です。
Answer
会計ソフトとストレージの役割分担を明確にすると、混乱が減ります。弥生会計やfreee会計では、取引データの検索は完璧にできます。なので、ストレージ側(GoogleドライブやDropboxなど)では「年度と月でフォルダを分けるだけ」というシンプルな運用で十分です。ファイル名は「日付_取引先.pdf」という最小限のルールでOK。金額は会計ソフトで検索するので、ファイル名に入れなくても問題ありません。大事なのは、ファイルをスキャンしたら、必ずその日のうちに決まったフォルダに入れる習慣をつけることです。後でまとめて整理しようとすると、二度手間になり、誰もやらなくなります。
