税理士のみなさん、最新記事「Autonomy in the real world? Druid AI unveils AI agent ‘factory’」は読みましたか?
Druid AIが発表した「AIがAIを作る」新しいテクノロジーについて解説した記事です。税理士業界でも自動化やAI活用が進んでいますが、この技術は単なる効率化ツールではなく、業務プロセスそのものを変える可能性を秘めています。
元記事を5つのポイントで要約
- Druid AIが「Virtual Authoring Teams」という、AIエージェントが別のAIエージェントを設計・テスト・展開できる新システムを発表した。
- このシステムは従来の10倍のスピードで企業向けAIエージェントを構築でき、コンプライアンス保護やROI追跡機能も備えている。
- OpenAI、Google、Microsoftなども同様のエージェント型AI市場に参入しており、2025年の最大トレンドになる見込み。
- 自動化による業務効率化が期待される一方で、組織的なリスク(コンプライアンス違反、バイアス、セキュリティ問題)も指摘されている。
- 現在は実証段階で、本格的なビジネス成果の検証はこれからだが、カスタマーサービスや文書処理など限定的な分野では既に実用化されている。
AIが自分でAIを作る時代がやってきた

税理士業務でも、freeeやマネーフォワード、弥生会計といったクラウドツールが当たり前になりました。
けれども今回紹介する技術は、そのレベルをはるかに超えています。
「AIファクトリー」って何?
Druid AIが提唱する「AIファクトリー」とは、簡単に言えば「AIが自分でAIを作る工場」のようなものです。
従来は人間がプログラミングしてAIツールを作っていましたが、この新しいシステムでは、AIエージェントが他のAIエージェントを自動的に設計し、テストし、実際に使えるようにするところまでやってしまいます。
例えば税理士事務所で考えてみましょう。
確定申告の書類チェックをするAIエージェントが必要になったとき、従来なら外部の開発会社に依頼して数週間から数ヶ月かかっていました。
AIファクトリーを使えば、既存のAIが新しいAIエージェントを数日で作り上げてしまう。
そんな未来が現実になろうとしているのです。
税理士業務への影響は?
税理士業務には定型的な作業がたくさんあります。
月次決算の数字チェック、勘定科目の仕訳確認、税務申告書の転記作業、顧問先への資料依頼メールの送信など、毎月繰り返される業務です。
Druid AIのような「自己増殖型」のAIシステムが普及すれば、こうした定型業務を自動化するAIエージェントを、事務所内で簡単に作れるようになるかもしれません。
「今月から新しいクライアントが増えたから、そのクライアント専用のチェックAIを作ろう」といった具合に、必要に応じてAIを「量産」できる時代がやってくる可能性があります。
ただし記事でも警告されているように、これは諸刃の剣でもあります。
自動化が進めば進むほど、「誰がどのAIを作ったのか」「そのAIは正しく動いているのか」を管理する負担も増えていくからです。
税理士が注目すべき競合プラットフォーム

記事では、Druid AI以外にも複数のエージェント型AIプラットフォームが紹介されています。
税理士の皆さんが実際に使う可能性のあるツールも含まれているので、整理しておきましょう。
主要なエージェント型AIプラットフォーム
| プラットフォーム | 提供企業 | 特徴 |
|---|---|---|
| GPTs | OpenAI | ChatGPTベースでカスタムAIアシスタントを作成可能 |
| Claude Projects | Anthropic | 長文処理に強く、コード生成なしでAIワーカーを構築 |
| Copilot Studio | Microsoft | Microsoft 365との統合が強みで、Word・Excelと連携 |
| Vertex AI Agents | Google Cloudのデータ基盤と連携したエージェント構築 | |
| Druid AI | Druid | 金融・保険業界向けの既製エージェントマーケットプレイスを提供 |
税理士業界では、特にMicrosoft 365を使っている事務所が多いため、Copilot Studioは身近な選択肢になりそうですね。
ExcelマクロやPower Automateを使っている事務所なら、比較的スムーズに導入できる可能性があります。
「エージェント型AI」って従来のAIと何が違う?
従来のAIは「質問に答える」「データを分析する」といった単一タスクが中心でした。
ChatGPTに「この仕訳は正しいですか?」と聞けば答えてくれますが、その先の行動は起こしません。
一方、エージェント型AIは「自律的に行動する」点が大きな違いです。
例えば「今月の売上データから税務リスクをチェックして、問題があれば顧問先に連絡しておいて」と指示すれば、AIが自分で判断してメールを送ったり、必要な資料を準備したりします。
エージェント型AIは「指示待ち」ではなく「自分で考えて動く」AIなのです。
これは業務効率化の観点では革命的ですが、税理士という専門職にとっては慎重に扱うべき技術でもあります。
税務判断を誤れば顧問先に多大な損害を与える可能性があるため、AIの「自律性」をどこまで許容するかは慎重な検討が必要です。
税理士業務での活かし方
ではこのエージェント型AIを、実際の税理士業務でどう活かせばよいのでしょうか。
記事の内容を踏まえて、現実的な活用シーンを考えてみましょう。
定型業務の自動化から始める
いきなり複雑な税務判断をAIに任せるのはリスクが高すぎます。
まずは定型的な作業から自動化を試してみるのが賢明です。
- 月次決算資料の作成補助(試算表から報告書への転記)
- 顧問先への定例連絡(資料提出リマインド、税務カレンダーの送付)
- 勘定科目の一次チェック(異常値の検知と報告)
- 税務申告書の下書き作成(データ転記とフォーマット整理)
- 電子帳簿保存法対応のファイル整理とチェック
例えば弥生会計やfreeeのデータを読み込んで、「前月比で大きく変動した勘定科目」を自動抽出し、その理由をヒアリングするメール文を自動生成するといった使い方が考えられます。
これならリスクは低く、業務効率は大幅に向上するでしょう。
ROI追跡機能を活用した効果測定
記事で注目すべきポイントは、Druid AIが「ROI追跡機能」を備えている点です。
税理士事務所でAIを導入する際、最大の障壁は「本当に効果があるのか分からない」という不安でしょう。
Druid AIのようなシステムでは、どの業務にどれだけの時間がかかっていて、AI導入後にどれだけ削減できたかを数値で追跡できます。
これは事務所の経営判断にも役立ちますし、スタッフに対して「AIは仕事を奪うものではなく、単純作業を減らして専門性の高い仕事に集中するためのツール」だと説明する根拠にもなります。
税理士事務所の多くは中小規模であり、大企業のようにIT部門があるわけではありません。
だからこそ「導入効果が見える化」されているツールを選ぶことが重要なのです。
導入前に知っておくべきリスク

記事では、エージェント型AIのメリットだけでなく、リスクについてもかなりのスペースを割いて警告しています。
税理士という専門職だからこそ、これらのリスクを理解しておく必要があります。
コンプライアンスとセキュリティの問題
税理士は顧問先の財務情報という極めて機密性の高いデータを扱っています。
エージェント型AIが自律的に動くということは、AIが勝手にデータにアクセスしたり、外部とやり取りしたりする可能性があるということです。
記事では「各エージェントがセキュリティ侵害のリスクを増やす」と指摘されています。
特に複数のAIエージェントが協力して動くシステムでは、どのAIがどのデータにアクセスしたのかを追跡するのが困難になります。
税理士法では守秘義務が厳格に定められており、情報漏洩があれば懲戒処分の対象になります。
AIツールを導入する際は、必ずセキュリティポリシーとアクセス権限の管理体制を確認しましょう。
また、電子帳簿保存法やインボイス制度といった法令対応が求められる中、AIが自動的に処理したデータが法令要件を満たしているかどうかも重要なチェックポイントです。
「自動化の負債」に注意
記事で興味深いのは「automation debt(自動化の負債)」という概念です。
これは、自動化されたプロセスが増えれば増えるほど、それらを管理・更新するコストも増えていくという問題です。
税理士事務所で考えてみましょう。
最初はシンプルに「請求書の仕訳を自動化するAI」を導入したとします。
次に「経費精算のチェックAI」、そして「給与計算の補助AI」と、次々にAIエージェントが増えていきます。
しばらくすると、これらのAIが複雑に絡み合って、「どのAIがどの処理を担当しているのか分からない」「一つのAIを修正したら、他のAIが誤動作した」といった状況が生まれる可能性があります。
これが自動化の負債です。
記事では「監視と厳格な監督のために必要な人員が、AIのROIを帳消しにする可能性がある」と警告しています。
つまり、AIを管理するために人を雇わなければならなくなり、結局コスト削減にならないというジレンマです。
税理士が取るべき現実的なアプローチ
では、こうしたリスクを踏まえて、税理士はどうすればよいのでしょうか。
記事の結論部分に、実践的なヒントが隠されています。
段階的な導入を心がける

記事では「自律性をスペクトラム(段階)として扱うべきで、ゴールとして扱うべきではない」と述べられています。
つまり、いきなり完全自動化を目指すのではなく、人間の監督下で徐々に自動化の範囲を広げていくべきだということです。
税理士業務に当てはめると、以下のような段階的アプローチが考えられます。
| 段階 | 自動化レベル | 具体例 |
|---|---|---|
| 第1段階 | AI提案・人間判断 | AIが仕訳候補を提示し、税理士が確認して承認する |
| 第2段階 | AI実行・人間監視 | AIが定型仕訳を自動入力し、税理士が月次で全体をチェック |
| 第3段階 | AI自律・例外報告 | AIが通常処理を完全自動化し、異常があった場合のみ税理士に報告 |
最初から第3段階を目指すのではなく、第1段階で十分にテストと検証を行い、信頼性が確認できてから第2段階に進む。
このような慎重なアプローチが、税理士という専門職には適しています。
既存ツールとの統合を考える
税理士事務所では既に様々なツールを使っているはずです。
freee、マネーフォワード クラウド会計、弥生会計、TKC、JDL、勘定奉行など、会計ソフトは事務所によって異なります。
またZoom、Chatwork、Slackといったコミュニケーションツールも日常的に使われているでしょう。
エージェント型AIを導入する際は、これら既存ツールとの連携がスムーズにできるかどうかが重要です。
記事でも触れられているように、Microsoft Copilot StudioならOffice 365との統合が強みですし、Google Vertex AI AgentsならGoogle Workspace環境で使いやすいでしょう。
新しいツールを導入するのではなく、今使っているツールの延長線上でAI機能を追加していく。
このアプローチなら、スタッフの学習コストも低く、既存の業務フローを大きく変えずに済みます。
今後2年が勝負の分かれ目
記事の最後で、「今後2年間で、AIファクトリーが実際のビジネス運営の一部になるか、それとも単なる抽象化レイヤーに過ぎないかが決まる」と述べられています。
税理士業界も同じです。
早期採用者の優位性
新しいテクノロジーには、必ず「早期採用者の優位性」があります。
エージェント型AIに関しても、今のうちから小規模な導入と実験を始めておくことで、2〜3年後に大きなアドバンテージを得られる可能性があります。
現在、税理士業界では人手不足が深刻化しています。
ベテラン税理士の高齢化と若手の人材不足により、事務所の規模を維持するのも困難な状況です。
こうした中で、AIを活用して一人当たりの生産性を高められる事務所は、競争優位を確立できるでしょう。
ただし記事でも指摘されているように、現時点では「実証された成功事例が少ない」のも事実です。
大企業のパイロットプログラム以外で、明確な成果が出ている例は限られています。
だからこそ、税理士事務所としては「全てをAIに任せる」のではなく、「部分的に試しながら学んでいく」姿勢が求められます。
人間にしかできない価値を磨く
最後に、AIがどれだけ進化しても変わらない真実があります。
それは「税理士の本質的な価値は、税務の専門知識と顧問先との信頼関係にある」ということです。
確定申告書の転記作業や月次決算の数字チェックは、確かにAIでも代替できるかもしれません。
しかし、顧問先の経営者と向き合って「来期の事業計画にはどんな税務リスクがあるか」「事業承継をどう進めるべきか」といった相談に乗るのは、人間の税理士にしかできない仕事です。
エージェント型AIの登場は、税理士が単純作業から解放され、より付加価値の高い業務に集中できるチャンスでもあります。
記事で紹介されたDruid AIのような技術は、まだ発展途上です。
けれども確実に、私たちの働き方を変えていく力を持っています。
税理士の皆さんには、過度な期待も過度な恐れもなく、冷静にこの技術と向き合っていただきたいと思います。
まずは身近なところから、小さな自動化を試してみる。
そして効果を測定し、改善を重ねていく。
そうした地道な取り組みが、2年後、3年後の事務所の競争力につながっていくはずです。
よくある質問と回答
Answer 従来のAIツールは「指示を受けて答える」だけでしたが、エージェント型AIは「自分で判断して行動する」点が大きく異なります。例えばChatGPTに「この仕訳は正しいですか?」と聞けば答えてくれますが、その先の修正や報告は人間が行う必要がありました。一方、エージェント型AIに「今月の経費精算をチェックして、問題があれば担当者に連絡しておいて」と指示すれば、AIが自動的にチェックを実行し、問題を発見し、メールを送信するところまで完結します。つまり「作業の実行者」として機能するのがエージェント型AIなのです。
Answer 現時点では明確な相場はまだ確立されていませんが、既存のAIツールから推測すると、事務所の規模や用途によって大きく異なります。Microsoft Copilot Studioのような既存プラットフォームの拡張機能として使う場合は、月額数千円から数万円程度で始められる可能性があります。一方、Druid AIのような専門的なエンタープライズ向けプラットフォームは、初期導入費用と月額利用料を合わせて数十万円から数百万円規模になることも考えられます。まずは既に使っているfreeeやマネーフォワード、Microsoft 365などのAI機能から試してみるのが、コストを抑えた現実的なアプローチでしょう。
Answer 現時点では、最終的な税務判断は必ず税理士が行う必要があります。税理士法では税理士の独占業務が定められており、税務代理や税務書類の作成は税理士資格を持つ者でなければできません。AIはあくまで「補助ツール」として位置づけるべきで、AIが提案した内容を税理士が確認・承認するプロセスが不可欠です。例えば、AIが勘定科目の仕訳候補を提示し、税理士がそれをチェックして最終決定するという使い方であれば問題ありません。完全にAI任せにするのではなく、税理士の専門的判断を最後に入れる体制を整えることが重要です。
Answer AIは仕事を奪うのではなく、仕事の質を変えるものです。確かに単純な転記作業やデータ入力といった定型業務は減少するでしょう。しかし税理士事務所の本質的な価値は、顧問先の経営課題を解決することにあります。AIによって単純作業から解放されたスタッフは、顧問先との面談時間を増やしたり、経営コンサルティングのスキルを磨いたり、より付加価値の高い業務に時間を使えるようになります。実際、人手不足が深刻化している税理士業界では、AIによる業務効率化は「人を減らすため」ではなく「一人当たりの生産性を高めるため」に必要とされているのです。
Answer リスクが低く効果が分かりやすい定型業務から始めるのがベストです。具体的には、顧問先への定例連絡メール(資料提出のリマインドや税務カレンダーの送付)、月次決算資料の作成補助(試算表から報告書への転記)、勘定科目の異常値検知(前月比で大きく変動した項目の抽出)などが適しています。これらの業務は判断の余地が少なく、ミスが起きても重大な問題にはなりにくいため、AIの精度を確認しながら安全に導入できます。十分にテストして信頼性が確認できたら、徐々に複雑な業務へと範囲を広げていくという段階的アプローチが成功の鍵となります。
