税理士のみなさん、こんな経験ありませんか。
「頑張って業務をこなしているのに、売上が増えない」「顧問先は満足しているはずなのに、値上げを切り出すのが怖い」—そんな悩みを抱える税理士事務所が増えています。
実は、その問題の根本は「価格設定の誤り」にあるのです。
なぜ税理士は値上げに踏み切れない?

多くの税理士事務所が陥っている落とし穴があります。
それが「作業量に基づく価格設定」という古いやり方です。
月50件の記帳、決算書作成、月次報告書—こうした業務にかかった時間を単価で掛けて、顧問料を決めている。
この方法は、確かに一見理にかなっているように思えます。
でも、実はこのやり方には大きな問題が隠れています。
「時間×単価」の価格設定がうまくいかない理由
想像してみてください。
あなたが月40時間かけて記帳代行を処理していた仕事が、freeeやマネーフォワードのAI機能により、月20時間に短縮されたとします。
従来の「時間×単価」という考え方なら、あなたの売上は半減します。
でも、その浮いた20時間を、顧問先の経営改善提案や資金繰り分析に使ったら?
提供する価値は明らかに上がっているはずです。
なのに、価格は変わらないままです。
これが、多くの税理士事務所が直面する矛盾です。
顧問先の心理:「税理士=作業者」との認識
もう一つの問題があります。
顧問先の多くは、税理士を「作業者」として認識しています。
「毎月、領収書を処理してくれる人」「決算時期に税務申告をしてくれる人」—という感じです。
こういった認識では、当然「その仕事にいくら時間がかかるか」が評価基準になります。
顧問先からすれば「できるだけ短時間で処理してほしい」という気持ちになるでしょう。
その結果、値上げを提案しても「え、さらに高くなるんですか?」という反応が返ってくる。
こういう悪循環に陥っている事務所が、実は多いのです。
なぜAI時代には値上げが正当か

しかし、2026年はその状況が大きく変わります。
AI導入により、記帳業務は確実に効率化されました。
その一方で、顧問先の経営課題は逆に複雑化しています。
インボイス制度への対応、電子帳簿保存法への対応、さらには資金繰りの悪化に悩む中小企業。
こうした課題に向き合える税理士こそが、本当に必要とされるのです。
つまり、記帳作業が効率化された今だからこそ、税理士の値上げは正当な事由がある。
インボイス制度、電子化対応による負荷増加
具体的な事由を挙げましょう。
インボイス制度によって、税理士事務所の業務は確実に増えました。
顧問先のインボイス対応の支援、請求書の確認、仕入税額控除の判定—こうしたタスクは新たに生まれたものです。
決算期だけで数時間から数十時間、増加している事務所もあります。
電子帳簿保存法への対応も同じです。
2024年から電子申告が事実上義務化されたことで、システム導入、顧問先への説明、設定サポート—これらはすべて、かつてはなかった負担です。
つまり、「手数は減っても、難度は上がった」というのが実情なのです。
人件費上昇と経営逼迫
もう一つ見逃せない理由があります。
人手不足による給与上昇です。
税理士事務所も例外ではなく、スタッフの給与を引き上げなければ人材を確保できない環境になっています。
人件費が上がれば、当然ながら経営は逼迫します。
従来の顧問料では、事務所経営が成り立たなくなっているケースも増えています。
こうした現実を、顧問先に説明できれば、値上げは十分正当化できるわけです。
値上げに成功している税理士事務所の特徴

では、実際に値上げに成功している事務所は、どんなことをしているのでしょうか。
共通点をまとめてみました。
付加価値の「見える化」が鍵
成功している事務所の多くは、提供しているサービスを「見える化」しています。
例えば、月次レポート。
単なる決算数字ではなく、経営分析、資金繰り予測、同業他社との比較—こうした付加情報を含めたレポートを作成しています。
月次報告時に、経営者と30分の相談タイムを設ける。
その中で「今月の売上が前年比110%になったのは新規営業の成果ですね。次月以降も維持する対策が必要です」といったコメントを加える。
小さなことのように見えますが、こうした「一手間」が、顧問先からの評価を大きく変えます。
「この税理士は、うちの経営のことをちゃんと理解しているんだな」—そう感じた顧問先は、値上げにも納得しやすくなります。
AI導入支援をセット提案
もう一つの工夫があります。
AI導入支援をセットで提案している事務所が、値上げに成功しているケースが多いです。
「freee会計のAI自動仕訳を導入することで、あなたの記帳業務は月20時間削減できます。浮いた時間を経営分析に充てることで、さらに経営改善提案を充実させます」—こうした形で提案すると、顧問先側も「値上げされるけど、得るものがある」と感じられるわけです。
実際、AI導入支援をした税理士事務所の中には、AI導入サポート料として月1~3万円の追加料金を得ているケースもあります。
値上げ前に準備すべき3つのステップ

では、実際に値上げをしようと決めたとき、何から始めるべきでしょうか。
ステップ1:現在の自社サービスを整理する
まず必要なのは、自分の事務所が実際に提供しているサービスを、もれなく書き出すことです。
月次記帳処理、決算書作成、税務申告書作成—こうした基本業務は当然として、その他の付加サービスも洗い出します。
月次報告会での経営相談、資金繰り表の作成、融資対策の支援、経営課題のアドバイス—どんなに小さなことでも構いません。
こうして整理してみると「あ、こんなにいろんなことをしていたんだ」という発見が生まれます。
これが、値上げの根拠になるのです。
ステップ2:顧問先の「困っていること」を把握する
次に大事なのは、顧問先がどんなことに困っているのかを把握することです。
月次報告時や決算時に、積極的に顧問先経営者と面談しましょう。
「最近、経営で困っていることはありますか?」という質問から、多くの情報が得られます。
資金繰りが厳しい、新規営業で苦労している、スタッフの採用ができない—こうした経営課題を聞き出すことで、その後の提案につながります。
なぜなら、税理士が「あなたの経営課題を理解している」と示すことができるからです。
顧問先が納得する値上げ資料の作成
いよいよ値上げを提案する段階です。
ここで大事なのが、資料の作成です。
「なぜ値上げするのか」を明確に示す
値上げを提案する際は、理由を明記した資料を用意しましょう。
いきなり「来月から顧問料を月3,000円上げさせていただきます」では、顧問先は納得しません。
ではなく、こうした資料を作ります。
インボイス制度対応による業務増加、電子申告義務化への対応、人件費上昇、AI導入による業務効率化と高度化—こうした理由を列挙した上で、新しい料金体系を提案するのです。
| 項目 | 従来 | 2026年以降 |
|---|---|---|
| 月次記帳処理 | 手作業30時間 | 自動化15時間 |
| 経営分析・提案 | 簡易的 | 月次レポート+経営相談 |
| 税制対応 | 基本的なサポート | インボイス・電子帳簿保存法対応含む |
| 料金 | 月額¥30,000 | 月額¥35,000 |
こうした比較表があれば、顧問先も「確かに、提供内容は充実している」と感じられます。
段階的な値上げと事前通知
もう一つの工夫が、段階的な値上げです。
一度に大幅に値上げするのではなく、まずは小幅な値上げ(例:月3,000~5,000円)を実施する。
その後、さらなる付加価値(経営改善提案、融資支援など)を追加する際に、再度値上げをする—こうした形で進めると、顧問先の抵抗感が少なくなります。
そして何より重要なのが「事前通知」です。
実施の3~6ヶ月前から、顧問先に通知するのがベストプラクティスです。
「来月から値上げです」では反発が生まれますが「6ヶ月後から、新しいサービス体系に移行します。具体的な内容は、次回の面談で説明させていただきます」という通知であれば、顧問先も心構えができます。
AI導入支援と値上げをセット提案する戦略
ここからは、2026年ならではの提案方法をお伝えします。
AI導入支援と値上げをセットで提案すれば、顧問先も納得しやすいのです。
「効率化で浮いた時間」を経営改善に充てる提案
具体的なシナリオを想像してみてください。
あなたが顧問先経営者に、こう説明するのです。
「御社の場合、freee会計のAI機能を導入すれば、毎月の記帳業務が月20時間削減できます。その浮いた時間を、経営分析や資金繰り予測に充てることで、さらに強い経営サポートができるようになります。つきましては、新しい料金体系をご提案させていただきたく思います」
このメッセージであれば、顧問先も「確かに、そのほうが良い」と思わざるを得ません。
具体的な付加価値の例
では、実際にはどんな付加価値を提供するのか。
以下のようなサービスを追加提案するのが効果的です。
- 月次経営レポート:売上分析、経費分析、キャッシュフロー予測を含む5~10ページの資料作成
- 経営相談タイム:月次報告時に30分~1時間の経営相談を設定
- 資金繰り支援:銀行融資の際の資料作成、融資交渉のサポート
- 経営改善提案:原価率低下、労務費削減などの具体的な改善案を提示
- 税制対策:節税案の提案、決算対策の検討
- 事業承継対策:後継者育成、事業譲渡の検討等の相談
- IT化支援:クラウド会計ソフト導入、AI活用のサポート
これらのサービスを段階的に追加していけば、顧問料の値上げも自然な流れとなります。
実例:AI導入支援から顧問料20%アップまでの道のり
では、実際に値上げに成功した事務所の事例をご紹介しましょう。
東京都内の10人規模の税理士事務所A。
従来は「月額3万円の顧問料」で経営していました。
顧問先は約50社。
年間で1,800万円の売上ですが、スタッフ給与が年々上昇する中で、利益が減少していたといいます。
きっかけ:スタッフからの提案
転機が訪れたのは2024年。
事務所のスタッフから「freeeの導入支援をやってみませんか」という提案がありました。
最初は懐疑的だった事務所長でしたが、スタッフの熱意に押され、2024年4月から試験的にfreee導入支援をスタート。
初期設定のサポート、顧問先スタッフへの使い方レクチャー、システム運用の相談対応—こうした業務を「月2万円の追加料金」で提供し始めました。
結果:月額¥36,000から¥43,200へ
驚いたのは、顧問先からの評判です。
記帳業務の時間削減ができた、ミスが減った、経営者がリアルタイムで経営数字を確認できるようになった—こうした好評の声が上がりました。
その後、事務所は「月次経営レポート作成費」として月3,000円、「経営相談費」として月2,000円の追加料金を提案。
結果として、月額¥30,000が月額¥43,200に。
実に20%の値上げに成功したのです。
重要なのは「いきなり20%値上げ」ではなく「付加価値→追加料金→その後の本格的な値上げ」という段階的なプロセスを踏んだこと。
これが顧問先の納得につながったのです。
値上げ時によくある5つの質問への答え
それでも、値上げを提案する際には、顧問先からさまざまな質問や反発が出ます。
ここでは、よくある質問への答え方をご紹介します。
Q1:「料金が上がる理由がわかりません。今までと同じ仕事ではないですか?」
A:「確かに、基本的な記帳処理などは以前と変わりません。ただ、システム環境が変わりました。インボイス対応、電子帳簿保存法への対応といった新しい業務が増えています。また、AI導入支援により、経営分析の質を高めることで、あなたの経営をより強くサポートできるようになったのです」
Q2:「ほかの税理士事務所に乗り換えることも検討しています」
A:「そうですか。ご検討いただくのは自由です。ただ、乗り換えにはコストがかかります。新しい税理士への説明、既存業務の引き継ぎ、システム環境の再構築—こうしたコストを考えると、既存の関係を継続するほうが、実は経済的かもしれません。ぜひ、一度ご相談ください」
Q3:「不景気なので、コストは減らしたいのですが」
A:「わかります。ただ、逆にこういう時だからこそ、経営分析が大事です。原価率は上がっていないか、無駄な経費がないか—こうした分析により、コスト削減の機会を見つけることができます。むしろ、今の時期だからこそ、経営サポートへの投資が効きやすいのです」
Q4:「値上げ幅が大きすぎないか」
A:「ご指摘ありがとうございます。段階的な値上げも可能です。まずは月2,000円程度の値上げから始めて、サービスが充実した段階で、さらに値上げをするという形も考えられます」
Q5:「契約打ち切りを検討している」
A:「そうですか。もし金銭面がネックでしたら、料金プランの調整も可能です。ただ、完全に関係を断つのではなく、一度ご面談させていただいて、最良の方法を一緒に考えたいのですが、いかがでしょうか」
いかがでしたか。
値上げは確かに難しい判断です。
でも、2026年はその好機なのです。
AI時代だからこそ、あなたが提供できる価値が明確になる。
記帳業務が効率化されたからこそ、経営サポートへシフトできる。
その変化を、顧問先に説得力をもって説明できれば、値上げは十分可能です。
大事なのは「単なるコスト値上げ」ではなく「サービス進化に伴う料金改定」という位置づけです。
ぜひ、その第一歩を踏み出してみてください。
よくある質問と回答
Answer
値上げを「コスト削減」ではなく「サービス向上」として位置づけることが鍵です。資料作成時に、従来のサービス内容と新しいサービス内容を並べて比較表を作成してください。「月次経営レポート追加」「融資支援の充実」「経営相談タイムの設定」—こうした具体的な追加サービスが目に見える形になれば、顧問先も「確かに価値が上がっている」と感じます。契約解除を検討している顧問先でも、面談時に「新しく始めたいサービスは何か」を聞き出すことで、テーラーメイドの料金プランを提案できます。「完全な値上げ」ではなく「オプション追加型」なら、抵抗感が減ります。
Answer
まずは「現状分析レポート」から始めることをお勧めします。顧問先の毎月の記帳業務にかかる時間を聞き出し、導入後の削減時間を試算したレポートを作成してください。「現在、月50時間かかっている記帳業務が、freee導入で月25時間に削減できます。浮いた25時間を経営分析に充てることで、経営の見える化が実現できます」—こうした形で示すと、顧問先も導入のメリットを理解しやすくなります。その後「導入支援費として月3,000円」「AI自動仕訳の監視費として月2,000円」といった形で、追加料金を提案するのが効果的です。実装から3ヶ月後の「効果測定面談」を設定すれば、さらに説得力が増します。
Answer
ここは「値上げ」から一度視点を変えて、「乗り換えのコスト」を数字で示すことが有効です。新しい税理士への説明(時間)、既存システムの引き継ぎ(手間)、新システム環境の構築(追加コスト)—これらを合計すると、実はかなりの負担がかかります。その上で「その負担を払ってでも乗り換える価値があるのか」という問いを投げかけるのです。同時に「現在のサービスで不満な点は何か」を詳しくヒアリングしてください。実は「値上げそのもの」ではなく「提案方法」や「コミュニケーション不足」が原因の場合も多いです。その場合は「来月から月次面談を導入する」「経営レポートのフォーマットを変更する」といった工夫で、顧問先の満足度を高めることが可能です。
Answer
「提供する」だけでなく「実感させる」ことが重要です。月次経営レポートを作成したら、その資料を使って顧問先と一緒に経営分析の時間を設けてください。数字だけ渡すのではなく「この月は売上が前月比105%になりましたね。これは新規営業の成果ですね。来月以降も維持するには、フォローアップが大事です」といったコメントを加える。融資支援を提案したなら「あなたの企業の場合、このような資料を銀行に提出することで、融資が通りやすくなります」と具体的に示す。こうした「一手間」が、顧問先に「この税理士は本当に我が社のことを考えてくれている」という実感を与えます。値上げ後3ヶ月、6ヶ月のタイミングで「サービス満足度アンケート」を取るのも有効です。
Answer
小規模事務所だからこそ「手作り感」を活かすことができます。高度な経営分析ツールを導入する必要はありません。Excel で簡単な売上分析表を作る、前月比と前年比を計算する、業界平均と比較する—こうした基本的な分析でも、顧問先にとっては十分な価値があります。大事なのは「分析の精度」ではなく「顧問先の状況を理解している」という姿勢を示すことです。また、月1時間程度の「経営相談タイム」を設定することも有効です。顧問先の経営者と直接会話する中で「最近、経営で困っていることはありますか」と聞き出すだけで、多くの情報が得られます。その情報を基に「融資対策が必要では」「スタッフ採用計画を立てましょう」といった提案ができれば、小規模事務所でも十分付加価値を提供できるのです。
