相続税を最大80%減額できる「家なき子特例」って何?

Kling ベーシックプラン

親と離れて暮らしていた子どもが、将来実家を相続する。
そんなときに強い味方になってくれるのが「家なき子特例」です。

正式には「小規模宅地等の特例」の一部として存在するこの制度は、被相続人と別居していても、一定の条件をクリアすれば自宅の土地評価額を80%も減額できる仕組みになっています。
つまり、1億円の評価額の土地が2,000万円になる計算です。
相続税の負担を大幅に軽くできる、相続税申告における最重要ポイントの一つと言えるでしょう。

税理士として顧問先から相続の相談を受ける際、この特例の適用可否を正確に判断できるかどうかが、クライアントの税負担に直結します。
「達人シリーズ」や「AI相続」などの申告ソフトを使っていても、入力前の要件判断は税理士の腕の見せ所です。

家なき子特例の4つの適用条件を整理する

Kling ベーシックプラン

家なき子特例を使うためには、被相続人・相続人・宅地それぞれについて細かい要件があります。
平成30年の税制改正でさらに厳格化されたため、以前の知識のままだと見落としが生じる可能性も。

被相続人側の条件:配偶者も同居親族もいない

まず大前提として、亡くなった方に配偶者がおらず、同居していた相続人もいないことが必須です。
住民票の住所だけでなく、実際の生活実態で判断される点に注意が必要です。

たとえば父親が一人暮らしで、子どもたちは全員独立して別居していた場合は、この要件をクリアします。
逆に、配偶者や同居親族が一人でもいれば、家なき子特例ではなく通常の小規模宅地等の特例を検討することになります。

相続人側の条件:3年以上持ち家がないこと

相続人本人が相続開始前3年以内に、自分や配偶者が所有する家に住んでいないことが条件です。
さらに平成30年改正で追加されたのが、「三親等内の親族」や「特別な関係がある法人」が所有する家にも住んでいないという要件。

居住禁止対象 改正前 改正後(平成30年~)
本人・配偶者の持ち家 対象 対象
三親等内親族の持ち家 対象外 対象
特別関係法人の所有家屋 対象外 対象

たとえば、子どもが自分の持ち家を兄弟に売却して賃貸で住み続けるような節税策は、改正によって完全に封じられました。
賃貸物件でも、親族が経営する法人所有の物件に住んでいた場合はアウトです。

もう一つ重要なのが、「相続開始時に居住している家を過去に所有したことがない」という条件。
リースバックのように、自宅を売却後もそのまま住み続けるパターンも特例対象外となります。

相続税申告での必要書類と手続きの実務ポイント

Kling ベーシックプラン

家なき子特例を適用するには、相続税の申告が不可欠です。
たとえ特例適用後の相続税額が0円になったとしても、申告期限(相続開始から10か月以内)までに必ず申告書を提出しなければなりません。

第11表の付表1が申告のカギを握る

実務では、相続税申告書の「第11表の付表1」に小規模宅地等の特例に関する情報を記載します。
「相続税の達人」などの専門ソフトを使えば、財産データを連動させて効率的に作成可能です。

  • 相続開始前3年以内の住所を証明する戸籍の附票の写し
  • 賃貸借契約書のコピー(第三者の物件に住んでいたことの証明)
  • 登記簿謄本(現在の居住家屋を過去に所有していなかったことの証明)
  • 遺産分割協議書の写しと相続人全員の印鑑証明書

マイナンバーカードを持っていれば一部書類が不要になるケースもありますが、基本的には上記の資料を揃える必要があります。

申告期限までの保有継続も絶対条件

相続した土地は、申告期限まで手放してはいけません。
評価額を下げてもらう代わりに、その土地をきちんと引き継ぐという制度趣旨があるためです。

遺産分割協議が申告期限に間に合わない場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば、後から特例を適用できます。
ただし、この場合も協議成立後4か月以内に更正請求が必要なので、スケジュール管理が重要になってきます。

税理士が押さえておくべき改正後の注意点

Kling ベーシックプラン

平成30年の改正以降、従来適用できていたケースが使えなくなった事例が増えています。
顧問先への説明時には、こうした変更点をしっかり伝えることが信頼関係の構築につながります。

節税目的の持ち家売却は完全にアウト

改正前は、相続開始の3年以上前に自宅を売却して賃貸暮らしになれば、家なき子特例を使えました。
しかし現在は、売却先が三親等内の親族や同族会社である場合、相続開始前3年以内に住んでいたらNGです。

実際の失敗例としては、父親名義の自宅を息子名義に変更し、息子がそこに住み続けていたケース。
形式上は息子の持ち家になったため、一見すると父親は「家なき子」に見えますが、三親等内親族の所有物件に居住していたことになり、特例は使えません。

経過措置の期限は令和2年3月31日で終了済み

改正時には、平成30年3月31日時点で改正前の要件を満たしていた場合、令和2年3月31日までに発生した相続なら旧要件で適用できる経過措置がありました。
現在はこの期限も過ぎているため、すべてのケースで新要件が適用されます。

過去の相続案件と混同しないよう、申告時期による要件の違いを整理しておくことが大切です。

相続税対策は二次相続まで見据えた提案が重要

税理士として価値あるアドバイスをするなら、一次相続だけでなく二次相続まで視野に入れた提案が求められます。
小規模宅地等の特例は一次・二次それぞれで適用できるため、トータルでの節税効果を最大化する戦略が必要です。

配偶者控除と小規模宅地の組み合わせ方

一次相続では、配偶者が「配偶者の税額軽減」を使い、子が取得する不動産に小規模宅地等の特例を適用。
二次相続でも再度小規模宅地等の特例を使えば、合計2回の特例適用で大幅な節税が実現します。

たとえば土地評価額6,000万円・330㎡の自宅がある場合、特例適用で評価額は1,200万円に。
4,800万円もの評価減は、相続税額に換算すると数百万円単位の節税効果を生みます。

顧問先との信頼関係を深めるコンサルティング

相続税申告は単なる数字合わせではなく、家族の想いや将来設計が絡む複雑な業務です。
「財産評価の達人」で土地評価を正確に行い、「相続税の達人」でシミュレーションを重ねながら、最適な遺産分割案を提案する。

そのプロセスで家なき子特例の可能性を見逃さず、適用できるケースではしっかり減額効果を説明できれば、顧問先からの信頼も一層高まります。
平成30年改正による厳格化を理解し、最新の税制に基づいた正確な判断ができる税理士こそが、これからの相続税実務で選ばれる存在になるでしょう。

相続税申告ソフトやクラウドツールが進化しても、要件判断や節税提案は人間の専門知識が不可欠。
家なき子特例という強力な武器を正しく使いこなし、クライアントの財産を守る。
それが税理士に求められる役割です。

よくある質問と回答

Q1:家なき子特例を受けるには、必ず相続税の申告をしなければいけませんか?
Answer はい、相続税の申告は必須です。仮に特例適用後の相続税額がゼロになったとしても、相続開始から10か月以内に申告書を提出する必要があります。この申告と同時に第11表の付表1に必要事項を記載することで、初めて特例が適用されます。申告書なしに特例の適用は認められない点が非常に重要です。税務署への申告が制度利用の大前提となっています。
Q2:相続開始前3年以内に、親族が所有する賃貸住宅に住んでいた場合は特例を使えないのですか?
Answer その通りです。平成30年の改正で「三親等内の親族」および「特別な関係がある法人」が所有する物件も対象になり、それらの物件に住んでいた場合は特例を受けられません。かつては、親が経営する法人の社宅に住んでいても問題なかったのですが、現在はNGになっています。兄弟の持ち家に住んでいた、親族経営の不動産会社が所有する賃貸アパートに入居していたという状況も該当します。
Q3:父親が亡くなった時点で、一緒に住んでいた配偶者(母親)がいます。この場合、子が家なき子特例を使えますか?
Answer いいえ、使えません。家なき子特例の大前提は「被相続人に配偶者も同居親族もいないこと」です。あなたが別居していても、母親がまだ実家に住んでいれば、その時点で特例の適用要件を失います。この場合は、母親が通常の「特定居住用宅地等」として小規模宅地等の特例を受けることになります。家なき子特例は、被相続人が本当に一人暮らしをしていた場合だけに限定されます。
Q4:相続開始前に自分の持ち家を売却して、その直後から賃貸に住み始めました。家なき子特例の対象になりますか?
Answer 状況によります。自分で所有していた家を売却して、その後3年以上賃貸で暮らしていれば、基本的に要件を満たします。ただし売却後の物件が三親等内の親族や関連法人の所有である場合はアウトです。また、そもそも自宅をリースバック(売却後も同じ家に住み続ける方式)していれば、特例は使えません。形式的な所有権変更ではなく、実質的な居住変更が問われる点が重要です。
Q5:遺産分割協議が申告期限に間に合いそうにありません。家なき子特例を使うにはどうすればいいですか?
Answer 「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば、申告期限内に仮に分割が決まっていなくても、特例の適用を受けることができます。ただし、その後協議が成立したら、4か月以内に更正請求を行う手続きが必須です。単に期限内に申告できなかったのではなく、きちんとした手順を踏むことで後からの適用修正が可能になります。このタイミング管理は税理士の腕の見せ所になり、クライアントの負担軽減につながる重要なポイントです。