確定申告時期の繁忙期、皆様いかがお過ごしでしょうか。
毎年のことながら、「もう少し早く資料をいただければ…」と胃が痛くなる思いをしている先生方も多いはずです。

今回は、そんな皆様の右腕となる「具体的なAIツール」と、その現場での活かし方を、同じ税務の現場を知る立場から本音で語らせていただきます。

領収書入力はAIに任せる時代

Kling ベーシックプラン

入力業務からの解放と精度

私たち税理士にとって、最も時間と精神力を削られるのが「領収書の入力作業」ではないでしょうか。
パンパンに膨らんだ封筒を渡された時の絶望感は、何度経験しても慣れるものではありません。

しかし、この「入力」という作業こそ、今最もAIが得意としている分野なのです。
一昔前のOCR(文字認識)は、「1」と「7」を間違えるようなレベルで、結局手打ちの方が早いということもありました。

今のAI-OCRは違います。
特に会計事務所業界でシェアを伸ばしている『STREAMED(ストリームド)』や『freee』の自動経理機能は、もはや「新人スタッフ」以上の精度を誇ります。

私が提唱したいのは、「入力はAI、確認は人間」という完全分業体制の確立です。
AIに画像を読み込ませ、仕訳データ化する。
人間はそのデータに異常値がないか、科目が税務的に正しいかをチェックする「監査」に特化するのです。

  • 手書き領収書の読み取り精度が99.9%を謳うツールも登場
  • スキャンセンターへの郵送代行を使えば、スキャン作業すら不要
  • 通帳データはAPI連携で、そもそも入力をしないフローへ

これにより、確定申告期の残業時間は劇的に削減されます。
単純作業で疲弊した頭で判断業務を行うよりも、フレッシュな頭で「チェック」に回る方が、リスク管理の観点からも正解だといえるでしょう。

クラウド会計とのシームレス連携

AI-OCRでデータ化したものを、いかにスムーズに会計ソフトに流し込むかも重要です。
『マネーフォワード クラウド確定申告』などは、銀行口座やクレジットカードとの連携機能が非常に強力です。

ここで重要なのは、AIが提案してくる「勘定科目」を鵜呑みにしないこと。
AIは過去の学習データから「消耗品費」と推測してきますが、それが「資産計上」すべきものかどうかは、文脈を知る人間にしか判断できません。

税理士としての腕の見せ所は、AIが迷った取引や、金額の大きな取引のジャッジに集中することです。
これまで入力にかけていた時間を、顧客との対話や節税提案に充てる。
これこそが、本来あるべき専門家の姿ではないでしょうか。

生成AIで顧客対応を劇的改善

Kling ベーシックプラン

メール作成時間の短縮術

確定申告時期は、顧客への資料催促や、質問への回答メール作成だけで1日の大半が終わってしまうことがあります。
「もっと丁寧な言い回しにすべきか」「でも厳しく期限を伝えないと…」と悩む時間は、実は大きなロスです。

ここで活用すべきは『ChatGPT』や『Claude』といったテキスト生成AIです。
例えば、「資料の提出が遅れている顧問先に、角を立てずに、かつ期限厳守を強く促すメールを作成して」と指示を出してみてください。

AIは感情を持たないため、非常に冷静かつ礼儀正しい「催促メール」を一瞬で書き上げます
私たちはそれを微調整して送信するだけです。

また、インボイス制度や電子帳簿保存法など、複雑な制度改正を顧客に説明する際もAIは役立ちます。
「インボイス制度の2割特例について、専門用語を使わずに飲食店オーナー向けに説明して」と投げかければ、驚くほどわかりやすい解説文が生成されます。

業務内容 従来の手法 AI活用後
資料催促 気を使って30分推敲 AI作成案を2分で修正
制度解説 一から文章を作成 AIの要約を活用

このように、私たちの「言語化」の負担をAIに肩代わりさせることで、精神的な疲労を大幅に軽減できるのです。

税務相談の一次回答案作成

顧問先からの税務相談に対しても、AIを壁打ち相手として使うことができます。
もちろん、現在の一般的な生成AI(ChatGPT等)に税務判断を丸投げするのは危険です。
嘘の情報(ハルシネーション)を返す可能性があるからです。

しかし、「このケースにおける論点整理」には非常に役立ちます。
「役員に対する社宅貸与の税務上の論点を箇条書きで挙げて」と聞けば、賃料相当額の計算や、小規模住宅の特例など、確認すべきポイントを網羅的にリストアップしてくれます。

  • Perplexity AIなどの検索連動型AIなら、出典元のURLも提示してくれる
  • 条文の検索や、国税庁タックスアンサーの該当ページ探しが高速化
  • あくまで「ドラフト作成」として使い、最終判断は税理士が行う

リサーチの初動をAIに任せることで、回答までのリードタイムを短縮し、顧客満足度を向上させることが可能です。

Excel業務はCopilotで加速

Kling ベーシックプラン

データ分析と異常値検出

我々会計人の共通言語といえば「Excel」です。
このExcelにも、AIの波は押し寄せています。
Microsoftの『Copilot for Microsoft 365』を使えば、Excel上でのデータ処理が対話形式で行えます。

例えば、数万行ある総勘定元帳データの中から、「交際費のうち、金額が500 USD以上で、かつ土日に支出されたものを抽出して」と指示すれば、一瞬でフィルタリングしてくれます。
これまで関数を組み合わせたり、ピボットテーブルを駆使して行っていた作業が、自然言語で完結するのです。

特に、月次推移で異常な動きをしている科目の発見など、監査業務の補助として非常に優秀です。
「何かがおかしい」という税理士の勘を、AIがデータで裏付けてくれるイメージです。

関数入力からの脱却

複雑な関数を覚える必要も、徐々になくなってきています。
「この表のA列とB列を比較して、一致しないものを赤くして」と言えば、条件付き書式や数式を勝手に設定してくれます。

これにより、事務所内のスタッフ教育コストも下がります。
Excelが苦手なスタッフでも、Copilotの助けを借りることで、ベテラン並みのデータ加工ができるようになるからです。

機能 活用シーン
データ抽出 高額取引や特定日の抽出
グラフ作成 売上推移の視覚化
数式生成 複雑なif関数の構築

単純な集計作業に時間をかけるのではなく、そこから読み取れる経営課題の発見に時間を使う。
これがAI時代のExcel活用術です。

AI時代の税理士の生存戦略

Kling ベーシックプラン

記帳代行からコンサルへ

ここまで紹介したツールを使いこなせば、記帳代行や申告書作成という「作業」の価値は、残念ながら(あるいは喜ばしいことに)下がっていきます。
誰がやっても、AIを使えば同じ結果が出るようになるからです。

では、私たち税理士の価値はどこに残るのでしょうか。
それは、「AIが出した数字を見て、経営者にどう伝えるか」というコミュニケーションの部分です。
そして、「将来どうすべきか」という意思決定の支援です。

AIは「過去の数字」をまとめるのは得意ですが、「未来の不安」に寄り添うことはできません。
社長の表情を見て、「今期は利益が出ていますが、来期の設備投資に備えて資金を残しましょう」と提案する。
これは人間にしかできない高度なコンサルティングです。

AIを最強の部下にする

恐れる必要はありません。
AIは税理士の敵ではなく、「文句を言わずに24時間働く優秀な部下」です。
この部下をどう使いこなすか、そのマネジメント能力こそが、これからの会計事務所の所長や幹部に求められるスキルになります。

  • 作業スタッフを増員する前に、まずツールの導入を検討する
  • 浮いたリソースを、巡回監査や経営計画策定支援に回す
  • 「AI活用事務所」としてブランディングし、採用難を乗り越える

ツールを使いこなし、人間にしかできない温かみのあるサービスを提供する
そんなハイブリッドな税理士こそが、これからの時代に選ばれ続ける存在になるはずです。

繁忙期は大変ですが、まずは一つのツールからでも試してみてください。
きっと、「もっと早く使っておけばよかった」と実感いただけるはずです。
皆様の確定申告業務が、少しでもスムーズに進むことを願っています。

よくある質問と回答

Q1:AIツールって本当に税務判断までできるんですか?
Answer いいえ、それはできません。現在のAIツールは「判断」ではなく「提案」と「スピードアップ」が役割です。例えば、ChatGPTは「役員賞与の要件を挙げて」と聞けば、法人税法上の条件を網羅的にリストアップしてくれます。しかし「この金額の役員賞与は損金算入できるか」という最終判断は、必ず税理士が行う必要があります。AIは「思考の起点」「リサーチの加速」「書類作成の効率化」に特化していると考えてください。
Q2:小規模事務所でもAIツール導入は現実的ですか?
Answer むしろ小規模事務所こそ活躍の場が大きいです。大手事務所は既に高額なシステムを揃えていますが、小規模事務所ならば低コストで高い効果を得られます。例えば、ChatGPT Plusは月額20USDで使えますし、Excelに既に搭載されているCopilot機能も追加料金なしで利用できる場合があります。まずは無料版や低価格ツールから試してみて、投資対効果を見極めるのが賢明です。スタッフの時間単価を考えれば、1人あたり月数千円のツール代は確実に元が取れます。
Q3:AIが誤った情報を返した場合、責任は?
Answer それは使う側の責任です。AIは便利ですが完全ではありません。「ハルシネーション」と呼ばれる造語や誤情報を生成することもあります。したがって、AIの出力は必ず人間が検証する必要があります。特に税務判断が伴う場合は、国税庁タックスアンサーや最新の通達を確認してから顧客に回答しましょう。AIは「初期リサーチの相棒」であり、最終的なゲートキーパーは必ず税理士です。この原則を徹底すれば、リスク管理も同時に実現できます。
Q4:既存のクラウド会計ソフトのAI機能で十分では?
Answer 用途によります。クラウド会計ソフト(freeeやマネーフォワード等)のAI機能は、「領収書読み込み」や「勘定科目の自動提案」に特化しており、そこは確かに優秀です。しかし、顧客への文章作成、複雑なExcel処理、論点整理には向きません。つまり、会計ソフト内の処理にはソフト付属のAIで、事務所全体の業務効率化には汎用AIツール(ChatGPT等)というように、目的に応じた使い分けが最適です。複数のツールを組み合わせることで、より大きな相乗効果が生まれます。
Q5:スタッフがAIツールを使うようになると、スキルが落ちませんか?
Answer 正しい導入なら問題ありません。むしろスキルの「質」が変わります。「Excel関数を覚える」という作業スキルの重要性は下がりますが、「その数字が何を意味するか」という分析スキルの重要性は上がります。AIに単純作業をさせて、人間は思考労働に集中する環境を作ることで、スタッフの成長機会は実は増えるのです。ただし、そのためには事務所側の教育投資が必須です。AIツールの使い方だけでなく、「どういう指示を出すべきか」「AIの限界は何か」といった、メタ的な思考力を育てることが経営者の責任だと言えます。