税理士業界は今、2026年の大型税制改正への対応に追われています。
賃上げ促進税制の廃止やインボイス制度の変更など、複雑な制度改正が同時に進行しているのです。
2026年税制改正で何が変わるのか

2026年は税理士にとって大きな転換点となります。
複数の重大な税制改正が同時に実施されるため、顧問先への説明や実務対応に多くの時間が取られることが予想されます。
特に注目すべきは、賃上げ促進税制の見直しとインボイス制度の経過措置終了です。
賃上げ促進税制の廃止・縮小の全体像
賃上げ促進税制は、企業が従業員の給与を引き上げた場合に法人税を減額できる制度です。
しかし2026年度の税制改正により、この制度が大きく変わります。
大企業向けは2026年3月末で完全廃止、中堅企業向けは2027年3月末で廃止となることが決定しました。
具体的には、大企業向けの措置は2026年3月31日をもって廃止されます。
中堅企業向けについては、適用要件が厳格化された上で、2027年3月末に終了します。
2026年度の中堅企業の適用条件は、給与総額を前年度比で4%以上引き上げることが必要となり、現行の3%以上から引き上げられました。
| 企業規模 | 現行制度 | 改正後 |
|---|---|---|
| 大企業 | 賃上げ率3%以上で適用 | 2026年3月末で廃止 |
| 中堅企業 | 賃上げ率3%以上で適用 | 2026年度は4%以上に変更、2027年3月末で廃止 |
| 中小企業 | 継続適用 | 継続(要件の一部見直しあり) |
計算方法の複雑化による実務上の懸念
賃上げ促進税制は、年々計算方法が複雑になっています。
継続雇用者の給与増加割合を計算し、税額控除率を判定し、さらに上乗せ要件を確認するという多段階のプロセスが必要です。
制度の複雑化により、実務上の計算ミスや適用判定の誤りが増加しているのが現状です。
特に中小企業では、給与計算ソフトや会計ソフトで自動計算されない部分も多く、税理士が手作業で確認する必要があります。
freee会計やマネーフォワード クラウド会計といったクラウドツールを使っていても、賃上げ促進税制の細かな要件チェックは手動で行わなければなりません。
また、控除限度超過額の繰越制度も創設されており、複数年度にわたる管理が求められるようになっています。
インボイス制度2026年問題とは

インボイス制度には、導入当初の混乱を緩和するための経過措置が設けられていました。
しかし、2026年10月にこの経過措置が大きく変更されるため、多くの事業者に影響が出ます。
これが「インボイス制度2026年問題」と呼ばれるものです。
2割特例の廃止で何が起きるか
2割特例とは、免税事業者からインボイス発行事業者になった小規模事業者が、売上にかかる消費税額の2割だけを納税すればよいという特例です。
この制度により、多くの小規模事業者が消費税の納税負担を大幅に軽減してきました。
例えば、売上にかかる消費税が100万円の場合、通常なら仕入税額控除の計算が必要ですが、2割特例なら20万円を納税するだけで済みます。
しかし、2割特例は2026年9月30日で完全に終了します。
2026年10月以降は、原則課税または簡易課税での計算が必要となり、納税額が大幅に増加する可能性があります。
個人事業主の場合、2026年分の確定申告までは適用できますが、それ以降は通常の計算方法に移行しなければなりません。
- 2割特例の適用期間は2023年10月1日から2026年9月30日まで
- 2026年10月以降は原則課税または簡易課税での計算が必須
- 納税額が2倍から5倍に増加するケースもある
- 事前に簡易課税制度選択届出書の提出が必要な場合がある
免税事業者からの仕入税額控除が50%に制限
2026年10月からは、免税事業者からの仕入れに対する税額控除の割合も変更されます。
現在は80%控除が認められていますが、2026年10月以降は50%控除に縮小されます。
これは、インボイスを発行できない免税事業者から商品やサービスを仕入れている課税事業者に影響します。
例えば、免税事業者から10,000円(税込11,000円)の仕入れをした場合、現在は8,000円の税額控除が受けられますが、2026年10月以降は5,000円しか控除できなくなります。
この差額3,000円が、課税事業者の実質的な負担増となるのです。
さらに、この経過措置は段階的に縮小され、最終的には2029年10月以降は控除が完全にゼロになります。
税理士としては、顧問先に対してこのスケジュールを説明し、免税事業者との取引見直しやインボイス登録の促進を提案する必要があります。
帳簿記載と記帳方法の再確認が必要

インボイス制度の経過措置が変更されることで、帳簿記載や記帳方法も見直しが必要になります。
特に2割特例を利用していた事業者は、2026年10月以降の対応準備を今から始めなければなりません。
2割特例終了後の記帳体制構築
2割特例を適用している間は、売上を税率ごと(軽減8%・10%)に把握するだけで消費税の申告ができました。
しかし2026年10月以降は、仕入税額控除の計算が必要となるため、すべての仕入れについてインボイスを保存し、正確に記帳する必要があります。
これまで簡易的な記帳で済んでいた事業者にとって、これは大きな業務負担の増加を意味します。
freee会計やマネーフォワード クラウド会計を導入していても、インボイスの保存管理や適格請求書の判定は人の目で確認しなければなりません。
2割特例終了を見据えて、今のうちから適切な記帳体制を整えることが重要です。
- すべての仕入れについてインボイスの保存が必要
- 適格請求書かどうかの判定を正確に行う
- 免税事業者からの仕入れは別途区分して記録
- 会計ソフトの設定を2026年10月前に見直す
経過措置適用の帳簿記載要件
免税事業者からの仕入れについて80%控除(2026年10月以降は50%控除)の経過措置を適用するには、帳簿に特定の事項を記載する必要があります。
具体的には、「区分記載請求書等と同様の事項」に加えて、「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨(80%控除対象など)」を記載しなければなりません。
この記載を怠ると、経過措置が適用されず、仕入税額控除がまったく受けられなくなるリスクがあります。
TKCや弥生会計、勘定奉行といった会計ソフトでは、摘要欄に自動で文言を入れる設定ができる場合もありますが、すべてのソフトで対応しているわけではありません。
税理士としては、顧問先の使用している会計ソフトごとに、適切な設定方法を案内する必要があるでしょう。
税理士が今すぐ取るべき対応策

2026年の税制改正に向けて、税理士が今から準備すべきことは多岐にわたります。
顧問先への早期の情報提供と、事務所内での対応体制の構築が急務です。
顧問先への早期周知と個別シミュレーション
最も重要なのは、顧問先に対して2026年の税制改正の内容を早期に伝えることです。
特に2割特例を利用している事業者には、2026年10月以降の納税額がどれくらい増加するかをシミュレーションして示す必要があります。
例えば、年間売上が3,000万円(消費税300万円)の事業者が2割特例を使っている場合、現在の納税額は60万円です。
しかし簡易課税に切り替えた場合、業種によっては納税額が150万円から240万円に跳ね上がる可能性があります。
この差額を事前に把握し、資金繰り計画に反映させることが、顧問先の経営を守ることにつながります。
また、賃上げ促進税制の廃止により、これまで減税を受けていた大企業や中堅企業は、2026年度以降の税負担が増加します。
経営計画や設備投資計画への影響を試算し、早めに経営者と協議することが求められるでしょう。
事務所内の実務体制の見直し
税理士事務所内でも、複雑化する税制改正に対応するための体制整備が必要です。
スタッフ全員が新しい制度を正確に理解し、顧問先に説明できるようにするための研修を実施しましょう。
また、インボイス制度の経過措置終了に伴い、記帳代行業務の工数が増加することが予想されます。
2割特例を利用していた顧問先が原則課税や簡易課税に移行すると、インボイスのチェックや仕入税額控除の計算が必要になるためです。
業務量の増加を見越して、顧問料の見直しや業務の効率化を検討するタイミングでもあります。
| 対応事項 | 実施時期 | 担当者 |
|---|---|---|
| 顧問先への税制改正説明 | 2026年1月〜3月 | 担当税理士 |
| 2割特例終了の個別シミュレーション | 2026年4月〜6月 | 担当税理士・スタッフ |
| 簡易課税制度選択届出書の提出支援 | 2026年7月〜9月 | スタッフ |
| 会計ソフト設定の見直し | 2026年8月〜9月 | システム担当 |
複雑化する税制改正への長期的対策
2026年の税制改正だけでなく、今後も税制は複雑化し続けることが予想されます。
税理士として、この変化に継続的に対応していくための長期的な戦略が必要です。
継続的な学習体制の構築
税制改正は毎年行われますが、2026年のように複数の大型改正が重なる年もあります。
税理士としては、常に最新の情報をキャッチアップし、顧問先に正確な情報を提供できる体制を整えなければなりません。
日本税理士会連合会やTKC全国会が提供する研修に積極的に参加することはもちろん、事務所内でも定期的な勉強会を開催しましょう。
特に若手スタッフには、税制改正の背景や実務への影響を理解させることが重要です。
単に計算方法を覚えるだけでなく、「なぜこの改正が行われたのか」「顧問先にどのような影響があるのか」を考える力を養う必要があります。
デジタルツールを活用した業務効率化
複雑化する税制に対応しながら、業務効率も維持するには、デジタルツールの活用が不可欠です。
マネーフォワード クラウド会計やfreee会計といったクラウド会計ソフトは、税制改正に対応したアップデートが随時行われます。
これらのツールを積極的に活用し、手作業での計算ミスを減らしましょう。
また、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用して、定型的なチェック業務を自動化する取り組みも有効です。
例えば、インボイスの登録番号が正しいかどうかのチェックや、適格請求書の要件を満たしているかの確認などは、RPAで自動化できる部分があります。
税理士業界は、2026年の大型税制改正という大きな試練に直面しています。
しかし、早期の準備と適切な対応により、この変化を乗り越えることは十分可能です。
顧問先と二人三脚で、新しい税制に対応していきましょう。
よくある質問と回答
Answer
はい、大幅に増える可能性が高いです。具体例を挙げます。年間売上が2,000万円(売上税額200万円)の小規模事業者が2割特例を使っている場合、現在の納税額は40万円です。しかし2026年10月に簡易課税(第2種)に切り替わると、納税額は60万円になります。さらに簡易課税ではなく原則課税になった場合は、仕入税額控除の計算結果によっては100万円を超えることもあります。この差を事前に把握して、資金繰りを調整することが重要です。freee会計やマネーフォワード クラウド会計のシミュレーション機能を使えば、複数パターンの試算ができます。
Answer
簡易課税制度を選択するには、「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出する必要があります。提出期限は、その制度を適用したい年の開始前までです。2026年10月から簡易課税を適用したい場合は、2026年9月末までに提出する必要があります。ただし、提出のタイミングは顧問先の業種や仕入税額控除の割合によって異なるため、事前にシミュレーションして判断することが重要です。TKCや弥生会計で試算してから、提出するかどうかを決めることをお勧めします。
Answer
インボイス保存の管理は、確かに手作業では大変です。以下の方法が効果的です。まず、クラウド会計ソフト(freee会計やマネーフォワード クラウド会計)に請求書をスキャン・アップロードする仕組みを作ります。次に、書類の自動仕分け機能を活用して、インボイスかどうかの判定を効率化します。さらに、月次で「適格請求書チェックリスト」を作成し、記載要件を満たしているかを確認する体制を整えましょう。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入すれば、登録番号の妥当性チェックも自動化できます。
Answer
賃上げ促進税制の廃止は、これまで減税を受けていた企業の税負担が大幅に増加することを意味します。説明する際は、まず「現在享受している減税額」を具体的な金額で示しましょう。例えば、「現在年間1,000万円の法人税減額を受けていますが、2026年度以降はこの減税がなくなります」というように、定量的に伝えることが重要です。その上で、「代替案として、設備投資減税や研究開発税制の活用を検討しましょう」というように、他の選択肢を提案することで、経営者の不安を軽減できます。
Answer
税理士事務所内での研修体制が必須です。まず、日本税理士会連合会やTKC全国会が提供する公式研修に、担当税理士やシニアスタッフを派遣します。帰所後、彼らが事務所内で勉強会を開催し、全スタッフに内容を共有します。次に、実務を想定した演習を行いましょう。例えば、「2割特例から簡易課税に切り替わった顧問先について、9月と10月の記帳方法がどう変わるか」といった具体的なケーススタディです。さらに、四半期ごとに「税制改正情報提供会」を開催し、常に最新情報を全員で共有する仕組みを作ることが重要です。
