在宅手当が課税される瞬間、知ってますか

テレワーク時代を迎えて、多くの企業が在宅勤務手当を支給するようになりました。
ところが、その手当がいつ課税対象になるのか、税理士の間でも判断が分かれることがあります。
基本は「毎月一定額を支給すれば課税」、「実費精算なら非課税」という単純な仕分けではなく、細かな条件次第で扱いが激変するからです。
給与計算ソフトの「給与奉行」や「CloudSign」でも対応に手間取る企業が多いのが実情です。
毎月の定額支給は原則として課税対象

在宅勤務手当として毎月5,000円を一律支給する場合を考えてみましょう。
このような定額支給は、給与の一部とみなされるため、所得税が課税されます。
なぜ定額支給は課税されるのか
定額支給が課税対象になる理由は、支給額の使途が制限されないからです。
従業員が実際に在宅勤務に費用を使わなかったとしても、金額の返還が求められないため、それは実質的に給与と変わらないということになります。
所得税法の考え方では、「会社が従業員に支払う金品」はすべて給与にあたります。
通勤手当の代わりに在宅勤務手当を支給したとしても、給与として扱われる仕組みになっています。
給与計算における源泉徴収漏れに注意
課税対象の在宅勤務手当には、必ず源泉徴収が必要です。
給与計算システムで毎月の給与総額が決まる際に、在宅勤務手当を含めた全体に対して源泉徴収税を計算する必要があります。
この源泉徴収漏れは、後々のお尻拭きが大変になる落とし穴です。
実費精算ならケースバイケースで非課税化

在宅勤務手当が非課税になる方法は、実費精算にあります。
ただし、「実費」の定義が曖昧だと、税務調査時に指摘を受ける危険があります。
完全な実費支給が最も安全
従業員が在宅勤務に関連する通信費や電気代などを実際に支払い、その全額を会社が精算する方法です。
この場合、領収証などの証憑書類さえあれば、支給額は非課税として扱えます。
「業務で使用した事績が明らか」というのが非課税のポイントです。
領収書には、何に使ったのか、その用途を必ず記載しておくことが重要です。
通信費と電気代の合理的計算方法
2021年1月に国税庁が公開した指針によれば、在宅勤務に関連する通信費と電気代については、合理的な計算方法で非課税額を算出できるようになりました。
通信費の計算式は以下の通りです。
従業員が支払った1ヵ月の通信料金×(1ヵ月の在宅勤務日数÷該当月の日数)×1/2
この式で算出された金額は非課税になります。
例えば、月額10,000円の通信料で、1ヵ月30日のうち15日間在宅勤務していた場合、10,000円×(15日÷30日)×1/2=2,500円が非課税額となります。
電気代の計算式もあります。
従業員が支払った1ヵ月の電気料金×(業務に使用した部屋の床面積÷自宅の全床面積)×(1ヵ月の在宅勤務日数÷該当月の日数)×1/2
電気代の場合は、業務スペースの面積比も考慮に入れる必要があります。
このような計算は複雑なため、給与計算ソフトでも自動計算できない企業が多いのが実態です。
定額手当+実費精算の組み合わせパターン
実務では、定額の在宅勤務手当と実費精算を組み合わせる企業が増えています。
このパターンでは、課税と非課税が混在するため、注意が必要です。
定額手当部分と実費精算部分の仕分け
毎月一律3,000円を在宅勤務手当として支給し、さらに通信費の実費精算を別で行うというケースを考えましょう。
この場合、定額の3,000円は課税対象の給与となります。
一方、通信費の実費精算部分は、上記の計算式で算出した金額が非課税になります。
つまり、同じ月の在宅勤務関連支出でも、一部は課税、一部は非課税という複雑な状況が生まれるわけです。
給与計算時の処理フローを明確にしておく
毎月の給与計算で手間が増えることになります。
定額部分と実費部分を区分して計算し、源泉徴収額も別々に算出する必要があります。
できれば、給与計算ソフト内でこの仕分けが自動で行われるような設定を事前に済ませておくことをお勧めします。
現物給与としての支給は落とし穴が多い
在宅勤務に必要な事務用品やオフィスチェア、モニターなどを直接購入して従業員に支給する場合があります。
この場合の税務取り扱いは、想像以上に複雑です。
支給と貸与で課税が異なる
在宅勤務に必要なノートパソコンを従業員に支給(所有させる)した場合、それは「現物給与」として所得税が課税されます。
一方、同じパソコンを「貸与」(会社がずっと所有し、従業員は使用権のみ)した場合は、非課税です。
この違いは、その物品が最終的に誰のものになるか、という点です。
支給は従業員のもの、貸与は会社のままというわけです。
現物給与の評価と計算の煩雑さ
パソコンや机などの物品を支給した場合、その時点での市場価格で評価して、源泉徴収の対象にする必要があります。
数万円するパソコンを支給すれば、その価格相当額が従業員の給与に加算されるため、所得税と社会保険料が増えることになります。
実務では、支給物品の時価を毎回評価するのは手間がかかるため、できれば「貸与」という形で対応する企業が増えています。
社会保険と消費税の側面も忘れずに

在宅勤務手当の課税問題は、所得税だけの話ではありません。
社会保険と消費税という別の視点からの確認も必要です。
課税対象の手当は社会保険料の算定対象
所得税で課税対象と判定された在宅勤務手当は、社会保険料の計算にも含まれます。
つまり、健康保険料と厚生年金保険料の算定額が増えるということです。
定額3,000円の在宅勤務手当を支給すれば、その3,000円は毎月の保険料算定に使われる給与に含まれます。
従業員負担分も増える一方、企業負担分も増えることになるため、コスト面での影響も見逃せません。
消費税における手当の扱い
企業の決算時に消費税を計算する場合、在宅勤務手当は給与扱いされるため、消費税の課税取引ではなく非課税取引となります。
一方、実費精算で計上した通信費や電気代については、その費用自体に消費税がかかっていれば、その消費税は控除対象になる可能性があります。
このように、同じ月の在宅勤務関連費でも、消費税処理が分かれることになるため、経理処理は一層複雑になります。
よくある質問と回答
Answer はい、毎月一律の定額支給は原則として課税対象です。所得税の対象になるだけでなく、社会保険料の算定基礎にも含まれます。ただし、その5,000円が従業員の実際の在宅勤務費用を完全にカバーしていて、年1回決算時に精算するという仕組みであれば、一部非課税にできる可能性があります。いずれにせよ、給与計算ソフトに課税額を正確に入力して、源泉徴収漏れがないようにすることが重要です。
Answer いいえ、領収書があっても、国税庁の指示に従った計算方法で非課税額を算定する必要があります。基本的に、支払った通信料金に在宅勤務日数の比率と50%を掛けた金額が非課税になります。たとえば月額10,000円の通信費で15日間の在宅勤務なら、10,000円×(15÷30)×0.5=2,500円が非課税額です。それを超える部分は課税扱いになるため、給与に含める必要があります。
Answer 支給(所有させる)場合は現物給与として課税対象です。購入時の市場価格で評価して、その金額を給与に加算して源泉徴収することになります。パソコンであれば数十万円する場合もあり、かなりの額が給与に上乗せされることになります。一方、貸与(会社が所有を続け、従業員に使用権のみ与える)場合は非課税です。税務上の負担を軽くしたいなら、可能な限り貸与にする方がよいでしょう。
Answer 国税庁の指針では、支払った電気料金に三つの係数を掛けます。一つ目は業務スペースの面積比(業務に使った部屋の床面積÷自宅全体の床面積)、二つ目は在宅勤務の日数比(1ヵ月の在宅勤務日数÷該当月の日数)、三つ目は50%です。たとえば月1万円の電気代で、業務スペースが自宅全体の30%、在宅勤務が15日間の場合、10,000円×0.3×(15÷30)×0.5=750円が非課税額になります。給与計算ソフトでも手動入力が必要な企業が多いです。
Answer 最も重要なのは、課税部分と非課税部分を確実に区分することです。定額3,000円は課税、実費精算で計算した金額は非課税というように、毎月の給与計算でこの仕分けが正確に行われるようにシステムを設定しておく必要があります。源泉徴収税の計算も課税部分のみで行い、非課税部分を含めないようにしましょう。社会保険料については、課税部分の手当だけが加算対象になります。複雑な処理なので、給与計算ソフトの設定をあらかじめ専門家に確認してもらうことをお勧めします。
