税理士のみなさん、最新記事「AWS re:Invent 2025: Frontier AI agents replace chatbots」は読みましたか?
今回は、AWSが発表した「フロンティアAIエージェント」について、税理士・会計士・経理担当者の視点でわかりやすく解説します。
元記事を5つのポイントで要約
- チャットボットの時代は終わり、「自律型AIエージェント」が主流になる
- AIエージェントは数日間、人間の介入なしで業務を遂行できる
- 導入企業では作業効率が1,000%向上、コスト95%削減の事例も
- レガシーシステムの刷新にもAIエージェントが活躍
- 自律型だからこそ、ガバナンス(統制)の仕組みが重要に
チャットボットからAIエージェントへ

「お話し相手」から「仕事をこなすAI」へ進化
AWSが2025年12月のre:Inventカンファレンスで発表したのは、AIの使い方が大きく変わるというメッセージでした。
これまでのAIといえば、ChatGPTのように「質問に答える」「文章を作る」といった対話型のチャットボットが中心だったと思います。
でも、AWSはハッキリと言い切りました。
「チャットボットの時代は終わり」と。
これからは「フロンティアAIエージェント」と呼ばれる、自分で考えて動くAIが主役になります。
単に質問に答えるだけでなく、数日間にわたって自律的に業務をこなしてくれる、まさに「働くAI」の時代が到来したということですね。
税理士事務所で何が変わる?
正直なところ、「AIが勝手に働いてくれる」と聞いても、すぐにはピンとこないかもしれません。
でも、普段の業務を思い浮かべてみてください。
例えば、決算期の記帳チェック。
ひとつひとつの仕訳を確認して、不整合がないかを見ていく作業は時間がかかります。
これをAIエージェントに任せれば、夜間や週末に自動でチェックを進めてくれる可能性があるわけです。
弥生会計やfreee、マネーフォワードといった会計ソフトを使っている事務所も多いでしょう。
今後、こうしたツールとAIエージェントが連携すれば、データの取り込みから仕訳の提案、さらにはエラーチェックまで一気通貫で任せられる時代がくるかもしれません。
なぜ今AIエージェントなのか

「ChatGPTで十分」では済まなくなってきた
これまでのAIツールは、基本的に「1回の質問に1回の回答」というやり取りが中心でした。
確かに便利ですが、複雑な業務を任せるには限界があったのも事実です。
例えば、「過去3年分の決算データを分析して、異常値を抽出し、報告書にまとめる」という作業。
従来のチャットボットでは、それぞれのステップを人間が指示しなければなりませんでした。
AIエージェントは違います。
最初に目的を伝えれば、途中のプロセスを自分で判断しながら進めてくれるのが特徴。
つまり、「指示待ち」ではなく「自走」してくれるAIというわけですね。
実際の導入効果がすごい
AWSの発表では、具体的な成功事例も紹介されていました。
ゴルフのPGAツアーでは、コンテンツ作成のスピードが1,000%向上し、コストは95%削減されたそうです。
もちろん、これはコンテンツ制作の話ですが、似たような効果は税務・会計の世界でも期待できます。
例えば、税務申告書のドラフト作成や、クライアントへのレポート作成といった定型業務。
こうした作業をAIエージェントに任せれば、税理士はより付加価値の高い相談業務に集中できるようになるでしょう。
| 従来のチャットボット | AIエージェント |
|---|---|
| 1回の質問に1回の回答 | 複数のタスクを連続で処理 |
| 都度、人間の指示が必要 | 目的を与えれば自律的に動く |
| 単純な対話が中心 | 複雑な業務フローにも対応 |
| リアルタイムでの応答のみ | 数日間かけて処理を継続 |
レガシーシステム問題にも効く

古いシステムの更新がネックになっていませんか
税理士事務所や会計事務所では、長年使い続けている業務システムがあるケースも多いはず。
Windows ServerやSQL Server、古いバージョンの.NETアプリケーションなど、更新したいけど手が回らない…という悩みを抱えている方もいらっしゃるでしょう。
AWSは「AWS Transform」というサービスを強化し、こうしたレガシーシステムの刷新をAIエージェントが自動で行えるようにしました。
実際に、Air Canadaは数千ものプログラムを数日間で刷新したとのこと。
従来なら数週間かかり、コストも5倍になっていた作業です。
税理士事務所にとっての意味
「うちは大企業じゃないから関係ない」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。
例えば、JDLやTKCなど税務専用システムを使っている場合でも、将来的にはクラウド移行やシステム連携が課題になってきます。
今のうちから「AIエージェントがレガシーシステムの更新を助けてくれる時代が来る」と知っておくだけでも、将来の事務所運営に役立つはず。
システムの更新を先延ばしにしている事務所は、今後AIエージェントの活用も遅れてしまうリスクがあることは覚えておきたいポイントですね。
自律型AIの落とし穴と対策
便利だからこそ「野放し」は危険
AIエージェントが数日間も自律的に動くとなると、当然リスクも出てきます。
万が一、AIが間違った判断をしたまま処理を続けてしまったら?
顧客の機密情報を誤って外部に送信してしまったら?
こうしたリスクに対応するため、AWSは「AgentCore Policy」という機能を発表しています。
これは、AIエージェントに対して「やっていいこと」「やってはいけないこと」を自然言語で設定できる仕組み。
例えば、「顧客データは社外に送信しない」「深夜は処理を一時停止する」といったルールを設定できるわけです。
税理士業務でのガバナンスの考え方
税理士業務は、顧客の財務情報や個人情報を大量に扱います。
だからこそ、AIエージェントを導入する際には、しっかりとしたガバナンスが欠かせません。
具体的には、以下のような対策が考えられます。
- AIが扱えるデータの範囲を明確に定義する
- 処理結果を人間がレビューするステップを設ける
- AIの行動ログを保存し、後から追跡できるようにする
- 税理士法や個人情報保護法に抵触しないかチェックする仕組みを作る
AIを「使いこなす」というのは、単に導入するだけでなく、リスク管理と運用ルールをセットで考えることなのです。
今から税理士ができる準備

まずは「AIに任せられる業務」を洗い出す
いきなり高度なAIエージェントを導入する必要はありません。
大切なのは、今の業務の中で「繰り返しの作業」「時間がかかる作業」「ミスが起きやすい作業」を洗い出すこと。
例えば、こんな業務はAIエージェント向きです。
- 月次の仕訳チェックと不整合の検出
- 確定申告時期の書類収集リマインド
- クライアントへの定型メール作成
- 過去のQ&Aからの回答ドラフト作成
- 税制改正情報の収集と要約
これらをリストアップしておけば、将来AIエージェントが使えるようになったときに、すぐに導入できる準備が整います。
クラウド会計ツールとの連携を意識する
現在、freeeやマネーフォワードクラウド、弥生クラウドなどを使っている事務所は、実はAIエージェント活用への準備が進んでいるとも言えます。
これらのクラウドサービスはAPI連携が可能なため、将来的にAIエージェントと接続しやすい環境が整っているからです。
一方、スタンドアロン型(オフラインのみで動く)のソフトを使っている場合は、データの受け渡しが難しくなる可能性も。
今のうちから、クラウド対応のツールへの移行を検討しておくのも一つの手でしょう。
| 今できること | 将来への効果 |
|---|---|
| 繰り返し業務のリスト化 | AIエージェント導入時に即活用可能 |
| クラウド会計ツールへの移行 | API連携でAIとの接続がスムーズに |
| スタッフへのAI教育 | 新技術への抵抗感を減らせる |
| 情報セキュリティ体制の整備 | 自律型AI導入時のリスク低減 |
まとめ:AIは「脅威」ではなく「相棒」になる
今回のAWS re:Invent 2025で発表された内容は、一見すると大企業向けの話に思えるかもしれません。
でも、AIの進化は確実に中小企業、そして個人事務所にも波及してきます。
大切なのは、「AIに仕事を奪われる」と恐れるのではなく、「AIに任せられる仕事を増やして、自分はもっと価値の高い仕事に集中する」という発想の転換。
税理士としての専門知識やクライアントとの信頼関係は、AIには代替できないものです。
AIエージェントを「優秀なアシスタント」として活用できる税理士が、これからの時代に選ばれる存在になるのではないでしょうか。
まずは、今日からできる小さな一歩として、自分の業務を振り返り、「これはAIに任せられそうだな」と思う作業をメモしてみてください。
その積み重ねが、数年後の事務所運営を大きく変えるきっかけになるはずです。
よくある質問と回答
Answer 今すぐ使える具体的な例を3つ紹介します。まず、記帳チェックの自動化。月次の仕訳データをAIに分析させて、不整合や異常値を朝にはレポートとして受け取る。次に、クライアントへのリマインドメール。期日が近づいたら自動でメールを送る。3つ目は、税制改正の情報収集。毎日更新される税制情報をAIが要約してくれる。これらを組み合わせると、今まで事務員が半日かかっていた作業が、朝コーヒーを飲みながら10分で済むようになるかもしれません。
Answer その不安、ものすごくよくわかります。実は、AWSが発表した「AgentCore Policy」という機能で、AIの行動を細かく制限できるんです。例えば、「顧客データは社内のサーバーのみで処理」「USBへのコピー禁止」「深夜0時以降は自動停止」といったルールを、日本語で簡単に設定できる。さらに、AIが何をしたかのログを残せるので、もし問題が起きても原因を追跡できます。ただし、これはあくまで仕組み。実際には、信頼できるクラウドサービスを選び、契約書に守秘義務を明記するなど、現行のリスク管理と併用することが大切です。
Answer 現時点では、まだまだ個人事務所がポンと導入できる価格ではないのが実情。AWSのTrainium3チップやAgentCoreは、主に大企業向けのサービスです。ただ、価格は時間とともに下がるのがテクノロジーの常。5年前のAIツールも、今では手頃な価格になっています。今のうちに「どの業務に使うか」を洗い出しておけば、料金が下がった瞬間にすぐ導入できます。アドバイスとしては、まずは無料のChatGPTやClaudeで業務の一部を自動化してみて、効果を実感することから始めるのが賢い方法です。
Answer 「今すぐ」ではなく、「今から準備を始める」が正解です。なぜなら、AIエージェントはチャットボットと違い、業務フローと連携させる必要があるから。例えば、freeeや弥生クラウドのデータをAIに渡すには、API連携の設定が必要です。これには、まずクラウド会計に移行する、スタッフにAIの基礎教育をする、業務の標準化を進める、といったステップが必要です。急がば回れ。来年の年末までに、少しずつ準備を進めておけば、2〜3年後の「AIエージェント標準時代」にはスムーズに対応できます。
Answer この質問、本当に大事ですね。結論から言うと、「AIに任せられる仕事は減るが、人間にしかできない仕事は増える」。今の税理士事務所で、事務員さんがやられている仕事の多くは、データ入力やチェック、書類整理などの定型作業。これらは確かにAIに任せられるようになるでしょう。でも、その分、クライアントとのコミュニケーションや、複雑な節税提案、経営相談といった、人間の経験と感性が必要な仕事が増えます。AIは「優秀なアシスタント」であって、税理士の専門性を代替するものではありません。むしろ、事務作業から解放されたスタッフが、より価値の高いサービスに注力できるようになる、そんな未来が見えていると思います。
