税理士のみなさん、最新記事「Higher tariff rates ‘yet to be fully felt’ in US: OECD」は読みましたか。
この記事では、関税率の引き上げが米国でまだ本格的には影響していない、というOECDの見方が紹介されています。
元記事を5つのポイントで要約
-
米国では関税率が引き上げられているものの、その影響はまだ経済全体には強く出ていない。
-
企業は在庫や高めの利益率を活用し、現時点ではコスト増を社内で吸収している。
-
その結果、最終消費者への価格転嫁は「これから本格的に進む可能性が高い」段階にとどまっている。
-
関税の影響度は、業種・企業規模・サプライチェーンの構造によって大きく変わると考えられている。
-
OECDは、今後の関税負担が利益率・投資・雇用などに与える影響を慎重に見ていく必要があると指摘している。
関税率上昇の現状を整理

「まだ効いていない」ように見える理由
記事によると、OECDは「関税率の引き上げは行われているが、その痛みはまだ経済全体には出切っていない」と指摘しています。
背景には、企業が過去に仕入れた在庫や、厚めに確保していた利益率を活用し、コスト増を社内で吸収している状況があります。
つまり、関税が上がったからといって、すぐに販売価格が跳ね上がるとは限らないということです。
在庫が切れたり、利益率に余裕がなくなったタイミングで、一気に価格改定が進むリスクを含んでいます。
税理士が押さえたい関税のタイムラグ
税務・会計の世界では、「コストの増加」と「利益への影響」が同時に出ないことは珍しくありません。
関税のような要因は、決算期や在庫状況によって損益計算書に現れるタイミングがずれます。
顧問先に対しては、次のような視点でヒアリングしておくとよいでしょう。
- 輸入品を扱っているか、その割合はどの程度か
- どのタイミングで価格改定を予定しているか
- 在庫回転日数と、今の在庫が購入された時期
関税の影響は「気づいたときには利益が削られていた」という形で現れやすいため、早めのモニタリングが重要になってきます。
| 項目 | 今の状態 | 数カ月後に起こり得ること |
|---|---|---|
| 仕入コスト | 在庫や利益率で吸収 | 関税転嫁で実質的に上昇 |
| 販売価格 | 据え置きのケースが多い | 値上げ交渉・価格改定が増加 |
| 利益率 | 徐々に圧迫され始める | 放置すると赤字転落のリスク |
税理士としての関税リスクの見方

PLだけでなくサプライチェーンを見る
関税の影響は、損益計算書の「売上総利益」だけを見ていても掴みにくいところがあります。
輸入比率が高いクライアントほど、仕入先・物流・在庫の持ち方など、サプライチェーン全体を意識したヒアリングが必要です。
顧問先チェックの際には、次のような角度で質問してみると、潜在的なリスクを浮かび上がらせやすくなります。
- 主要な仕入先の国・地域と、適用される関税の有無
- 在庫を厚めに持っているか、ジャストインタイム型か
- 値上げをどの程度顧客に伝えられる力があるか(価格転嫁力)
関税は「税金」だけでなく、「ビジネスモデルの耐久力」を試すイベントでもあるという視点を持つと、アドバイスの幅が広がります。
freeeやマネフォでできる簡易モニタリング
クラウド会計(freee、マネーフォワードクラウド、弥生クラウドなど)を使っている顧問先であれば、勘定科目や仕入先別に、原価の推移をグラフ化しやすい環境が整っています。
輸入関連の仕入先をラベル付けしておき、数カ月単位で原価率の変化をチェックするだけでも、関税影響の「兆し」をキャッチしやすくなります。
例えば、次のような指標をダッシュボード化しておくと便利です。
- 輸入関連仕入の前年同月比(数量・金額)
- 主要商品別の粗利率の推移
- 在庫回転期間の変化
これらを定期的に確認しながら、関税負担の影響が見え始めた顧問先に対し、早めに価格改定やコスト削減の検討を促す流れが理想ですね。
顧問先への実務的アドバイス

「値上げ」をタブーにしないコミュニケーション
記事が示すように、企業が在庫や利益率で関税を吸収する期間には限りがあります。
いつかは販売価格や取引条件に反映せざるを得ません。
税理士としては、「値上げは悪ではない」というメッセージを、数字と一緒に伝えていく役割も大きいです。
例えば、以下のようなシミュレーションは、社長の背中を押しやすくなります。
| ケース | 販売単価 | 粗利率 |
|---|---|---|
| 値上げなし | 現状維持 | 5ポイント低下 |
| 小幅値上げ | 3〜5%アップ | 粗利率ほぼ維持 |
顧問先の会議資料に、こうした簡易表を埋め込んでおくだけでも、「なぜ今、価格改定が必要か」が伝わりやすくなります。
関税を「我慢して飲み込む」のではなく、「説明して価格に反映させる」スタンスが、中長期的には企業を守ると考えたいところです。
在庫とキャッシュフローのバランスに注意
関税負担を抑える目的で、駆け込み的に輸入量を増やす企業も出てきます。
しかし、在庫を積み上げ過ぎると、キャッシュフローを圧迫し、結果として資金繰りが苦しくなる危険もあります。
税理士・会計士としては、在庫増加と借入金の動きを合わせて確認し、「在庫戦略として妥当か」「回収までの期間を踏まえているか」を一緒に検討する必要があります。
弥生会計やPCA会計などで在庫・仕入・売掛の回転を分析し、月次の打ち合わせでグラフを見せながら対話するスタイルが有効ですね。
AI×税理士でできるサポート

AIで関税影響のシナリオを素早く試す
AIツール(ChatGPT、Claudeなど)を活用すると、関税率アップのシナリオを複数パターン試算する資料作りがぐっと楽になります。
例えば、「仕入原価が5%・10%上がった場合の粗利・営業利益の変化」を、スプレッドシートで自動計算し、その説明文をAIに作ってもらう、といった使い方です。
また、英語のOECDレポートや海外ニュースをAIにかみ砕いてもらい、日本語で要点だけを確認する習慣をつけておくと、国際税務や貿易関連の話題に強くなれます。
AIは、関税や国際税務の「情報格差」を埋める補助ツールとして活用できるので、触っておいて損はありません。
顧問先別に「関税アラート」を決めておく
最後におすすめしたいのは、顧問先ごとに簡単な「関税アラート条件」を決めておくことです。
例えば次のようなイメージです。
- 輸入関連の原価率が前年より3ポイント以上悪化したら要注意
- 在庫回転期間が一定期間以上伸びたら、在庫積み過ぎの可能性あり
- 粗利率の急低下が2期連続したら、価格改定の検討を提案
こうした条件をfreeeやマネフォのレポート機能、あるいはExcel・Googleスプレッドシートで簡易的にモニタリングし、該当したクライアントには面談を打診する。
それだけでも、「数字に強く、環境変化に敏感な税理士」としての信頼感はぐっと高まっていくはずです。
よくある質問と回答
Answer 多くの企業は、過去に仕入れた在庫や、もともと高めにとっていた利益率を使って、当面のコスト増を社内で吸収しています。 そのため、決算書上の粗利率はまだ大きく崩れていないケースもあり、「気づいたら在庫も利益も削れていた」というタイムラグが生まれやすい状況です。
Answer freeeやマネーフォワード、弥生会計などで「輸入関連の仕入先」や「輸入商品用の勘定科目」を分けておき、原価率や粗利率の推移を月次で確認するのがおすすめです。 前年同月比や数カ月平均でじわっと悪化していないかをグラフで見える化すると、経営者にも説明しやすくなります。
Answer まずは、値上げをしない場合と小幅な値上げをする場合で、粗利と利益がどのくらい変わるかをシミュレーションして見せると納得感が出ます。 「値上げ=悪」ではなく、「会社を守るための必要な調整」という位置づけで、数字ベースの会話に持ち込むのがポイントです。
Answer 短期的にはコスト抑制に見えますが、在庫を積み上げ過ぎるとキャッシュフローを圧迫し、資金繰り悪化につながるリスクがあります。 在庫回転期間や借入残高の推移を一緒に確認し、「どこまでなら安全か」を数字で押さえたうえで判断してもらうことが重要です。
Answer はい、海外のレポートやニュースの要点を日本語でかみ砕いてもらったり、関税率が変わった場合の利益シナリオをパターン別に試算する資料作成に活用できます。 税理士側がすべて手作業で情報収集と資料作りをするのではなく、AIを使って下準備を効率化し、そのぶん顧問先との戦略的な議論に時間を割くのが良い使い方です。
